8 / 8

第8話

「ねえ……天音……くん」 車が赤信号で止まった瞬間を見計らい、 彼に声をかけた。真剣な眼差しが、ルームミラーに写しだされている。 (もう、かっこいいなぁ) 「どうかしたか? 」 「なんか、変な方向に車が向かってない? 」 「……ホテル街だろ」 言葉に乗せられると恥ずかしくなる。 顔に頬を当ててみると熱を持っていた。 「デートするんでしょ」 「ゲームもカラオケも全部できる」 「じゃなくて……っ……ふ」 助手席のシートに腕が回る。 影が重なって唇が触れ合った。 絡めあわせられた舌は、さっきより強引だった。 「やっぱり……」 「え」 「高校の頃より色っぽいな…… 我慢できなくなる」 「あ、あっ……」 服の中に忍び込んできた手が、胸の頂を摘み擦り、下腹部を撫であげた。ぞくりと背中が震えてたまらない。 「……もう、青だから! 」 何とかしぼりだした声で抵抗する。 名残惜しげに離れた唇。 二人を繋いでいた白い糸が、ぷつり、と切れた。何事も無かったように車がまた動き出し、 低いゲートをくぐっていく。 そわそわしていると、車は、駐車スペースに止まった。どきん、と心臓が鳴り響いてうるさいほどだ。 「……早く降りろよ」 躊躇っていると、外から天音が扉を開けた。 「……う、うん」 腕を引かれて歩いていく。 こんな所、もちろん来るのは初めてだ。 イメージと違って明るい雰囲気で、 ほっ、と胸を撫で下ろす。でかい液晶パネルに映し出された部屋の内装。こういうのは、一般的なホテルと違うところかもしれない。 受け付けは、なくて、よかったと心の底から思う。別に同性だからとやましい気持ちなんて、 今更ないんだけど、何となく。 「……零は可愛い部屋が好みかな」 勝手に納得した天音が、ディスプレイから、乙女仕様の部屋を押した。からん、と鍵が落ちてくる。 「出る時に支払うシステムだよ……お前なら、 髪の短い女で通るから大丈夫だな」 「僕は……男だ。女の子じゃない」 つん、と唇をとがらせると、からから、と笑う声がする。 「分かってるよ」 くす、とまた笑われた。 からかわれていた。むっ、とするけれど、天音の性格なんて昔からわかっているから平気なんだ。腕を絡めてしがみつく。エレベーターに乗ると、目的の階まで二人とも無言だった。 部屋の前でごくん、と息を呑む。 「怖気づいたのか、零? 」 「そんなわけない」 再会してすぐ、 そういう目的の場所に来るなんて、 まだ信じられなくて戸惑っているだけだ。 「明日の朝までゆっくりしような」 「……うん」 耳に届く声の甘さに、ときめいた。 開かれた扉の奥へと入っていく。

ともだちにシェアしよう!