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第8話
「ねえ……天音……くん」
車が赤信号で止まった瞬間を見計らい、
彼に声をかけた。真剣な眼差しが、ルームミラーに写しだされている。
(もう、かっこいいなぁ)
「どうかしたか? 」
「なんか、変な方向に車が向かってない? 」
「……ホテル街だろ」
言葉に乗せられると恥ずかしくなる。
顔に頬を当ててみると熱を持っていた。
「デートするんでしょ」
「ゲームもカラオケも全部できる」
「じゃなくて……っ……ふ」
助手席のシートに腕が回る。
影が重なって唇が触れ合った。
絡めあわせられた舌は、さっきより強引だった。
「やっぱり……」
「え」
「高校の頃より色っぽいな……
我慢できなくなる」
「あ、あっ……」
服の中に忍び込んできた手が、胸の頂を摘み擦り、下腹部を撫であげた。ぞくりと背中が震えてたまらない。
「……もう、青だから! 」
何とかしぼりだした声で抵抗する。
名残惜しげに離れた唇。
二人を繋いでいた白い糸が、ぷつり、と切れた。何事も無かったように車がまた動き出し、
低いゲートをくぐっていく。
そわそわしていると、車は、駐車スペースに止まった。どきん、と心臓が鳴り響いてうるさいほどだ。
「……早く降りろよ」
躊躇っていると、外から天音が扉を開けた。
「……う、うん」
腕を引かれて歩いていく。
こんな所、もちろん来るのは初めてだ。
イメージと違って明るい雰囲気で、
ほっ、と胸を撫で下ろす。でかい液晶パネルに映し出された部屋の内装。こういうのは、一般的なホテルと違うところかもしれない。
受け付けは、なくて、よかったと心の底から思う。別に同性だからとやましい気持ちなんて、
今更ないんだけど、何となく。
「……零は可愛い部屋が好みかな」
勝手に納得した天音が、ディスプレイから、乙女仕様の部屋を押した。からん、と鍵が落ちてくる。
「出る時に支払うシステムだよ……お前なら、
髪の短い女で通るから大丈夫だな」
「僕は……男だ。女の子じゃない」
つん、と唇をとがらせると、からから、と笑う声がする。
「分かってるよ」
くす、とまた笑われた。
からかわれていた。むっ、とするけれど、天音の性格なんて昔からわかっているから平気なんだ。腕を絡めてしがみつく。エレベーターに乗ると、目的の階まで二人とも無言だった。
部屋の前でごくん、と息を呑む。
「怖気づいたのか、零? 」
「そんなわけない」
再会してすぐ、
そういう目的の場所に来るなんて、
まだ信じられなくて戸惑っているだけだ。
「明日の朝までゆっくりしような」
「……うん」
耳に届く声の甘さに、ときめいた。
開かれた扉の奥へと入っていく。
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