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第12話
幸せすぎて怖い。
にへらっと笑っている様は、不気味かもしれないと自分で思う。
「……零、レポート出したん?」
「出したよ」
「それならええけど、顔に締まりがないで」
(他人に指摘されると、恥ずかしい)
「今、幸せの絶頂なんだよ。わかる?」
「気持ち悪っ」
何言われてもムカついたりしなかった。
恋の力は素晴らしい。
(天音の前では、ツンってしちゃうんだけど。
決して二重人格というわけじゃない。
一番話す関西弁のクラスメイトは、異性だけど性別を感じさせなくて話しやすかった)
「草壁、天音ってどう思う!?」
「天音? あ、社長の息子のイケメン進藤か……気にしたこともなかったわ」
しれっと言われてしまった。
「……あ、いや、変なこと聞いてごめん。気にしないで」
大学の教室は、段差ごとに長い机があり
これまでの学校生活と違い、個人の席は指定されていない。
今日は運が悪く背が高いやつの後ろで、前が見づらかった。
(天音みたいに180くらいあったらなー。考えたらムカついてきたぞ!
いや、待て。草壁も173はあるし、世の中不公平すぎん)
「……なでなで」
「な、何すんだよ」
一応、相手は女子なので振り払うのはやめておいた。草壁に頭を撫でられていても我慢だ。
「今日は運が悪かったな。零はちっさいから前が見づらいわな」
「マウント取るなよ…… 」
入学してからからかわれてばっかりだ。
「……牛乳飲んだらええ。うちの兄弟は遺伝と牛乳で背が伸びてる」
「あ、兄ちゃん、背が高いんだっけ」
「うん。お相手は153やから、30センチは違うな」
「身長差萌え」
「せやろ。だから相手が高くても気にすることないんやで?」
「な、何も言ってないだろ」
「こっちも何も言ってないで」
クスッと笑う。
(いらんこと聞くんじゃなかった。
相手が天音だってバレる)
「ほな帰るわ。零も気ぃつけて帰るんやで」
手を振り歩いて行く姿を呆然と見送る。
そういえば今日、受けなければいけない授業は全部終わっていた。
「俺も帰る!」
慌てて席を立つ。鞄を手に持つと教室から飛び出した。
「……廊下は走ったらあかんで」
吹き出す草壁の横を早足に戻して歩いていく。
待ち合わせの場所にあいつは来ているだろうか。
自然とゆるむ顔を手で押さえた。
「ま、待った?」
「今、来たところだけど」
待ち合わせ場所に行くと天音は悠然と立っていた。
息を切らしているこっちと違い、奇妙に涼しげだ。
緑がきらきらとした季節に爽やかな風に吹かれている。
「……よかった」
「カラオケでも行くか。そういやお前の歌う姿見たことなかったなって」
「絶対上手いだろ! こっちは下手なんだよ。無理。お断り。遠慮します」
取り乱す僕の首根っこをつかみ天音は優雅に微笑んだ。
「零とコラボしたら楽しそう」
「……一緒に歌うの? えっ?」
戸惑っているうちに引きずられていった。
天音の車の助手席に乗せられると運転席から、クスクスという笑い声が聞こえた。
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