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第13話
「天音って、高校出てすぐ免許取ったんだよね」
「うん。だから初心者マークは少し前に取れてる。
それでもまだ初心者だけど、これでも前より上手くなったんだ」
「これからもっと上手になるんだろうな。
僕も免許を取りたくなってきた」
「俺が乗せてやるから取らなくていいよ」
ハンドルを切る天音の横顔は笑っていた。
「……うん」
(一年先だって見えない。でも隣に乗っているのが
僕だったらいいなって素直に思うんだ)
カラオケの駐車場にブレーキを三回踏んで停まる。
ギアに手を伸ばしたら天音が握り返してくれた。
「……着いたぞ。安上がりの個室」
「?」
頭に疑問符を浮かべる。
天音の口元は微かにゆがんでいた。
二人とも車から降りる。
後ろをついていこうとしたら、手を握られ隣を歩くことになった。
(ちょっと乱暴。前のめりになったじゃんか。
さっきは首根っこ捕まれるし手を伸ばしやすい位置にあるのか?)
「顔に全部出てる。わっかりやすー」
「カラオケすんだろ。早く行こう」
手を強く握り返し歩く。
20センチは高い天音を見上げながら、ひとつ息をついた。
くやしいことに彼に勝てる部分は何もない。
天音なら異性にもモテモテだろうに、
中学の頃から慣れ親しんだ僕を選んだ。
離れていた数年間、天音を思いひとり遊びにふけった時も
また抱かれたくて妄想ばかり先走っていた。
再会してから奪われたキスは、どれだけ身体が熱くなったかわからない。
店員にカラオケの部屋を案内され、ふたりで歩いて行く。
その間もずっと手は繋いだままだ。
「部屋も綺麗でラッキーだな。
エアコンは27℃設定かな。
6月のじめじめにはうんざりだ」
ぶつぶつ言いながらエアコンの設定をする天音。
僕は広々としたソファーに座った。
フードメニュー用のタブレットに手を伸ばす。
「天音は、何か頼む。とりあえず
フードバスケットってのを頼もうかと思う。
唐揚げとフライドポテトがセットになってるやつ」
「いいんじゃね」
タブレットを手渡すとアルコールのページを表示させている。
「車で来たよね?」
「俺はソフトドリンクしか飲まないって。
何でもおごるから好きなの頼め」
「えっ……飲むの僕?」
「飲めるの知ってる。
ちょっと前に飲み会に参加してたよな?
結構羽目外してるやつも多かったろ」
せっかく勧められたのでタブレット端末から、カクテルを注文する。
天音は、コーラフロートを頼んだようだった。
「誘われたし、気まぐれで行ってみた。
独りだし別に誰のことも気にする必要なかったしさ」
再会する少し前のことだ。
何故、彼は知っているのだろう。
「なんで俺が知ってるのかって。
俺も参加してたからだよ。
誰かさんはまったく気づいてなかったけど?
知らないやつと楽しそうにしてて」
「何で飲まないのに来てるの。
自分こそモテまくってたんじゃない?」
「お前以外は興味がなかったし。
ソフトドリンク飲めばいいしってことで参加した。
小柄でかわいい同級生に会えるって聞いたから」
「そ、それって僕のこと?」
「お前以外に誰がいるんだ?」
(何だか、既に顔が熱いかも……まだ飲んでないのに)
運ばれてきた飲み物がテーブルに置かれる。
天音は先にカクテルを僕の前に置いてくれ、
自分もコーラフロートを取った。
「俺達の未来に乾杯」
「乾杯」
グラスを合わせて口をつける。
曲を選ぶためにタブレットの画面を見始めた。
手際がいい天音がマイクスタンドからマイクを外して
持ってきてくれている。
「アルコール飲めるけど強いだなんて一言も
言ってないんだけど。あの時も一杯しか飲んでないのに酔ったし」
グラス半分を一気に煽り、本格的に顔が熱くなってきた。
「酔うのは俺の前だけでいいんだよ。
変貌する姿も面白がってやるから」
「ど、どういうこと」
「今日は車だから飲まないけど
俺、アルコール好きだぜ。お前みたいに弱くないし」
やけになって残りのカクテルも飲み干した。
(遊ばれてる気がする)
「カラオケに来たのにどうして歌う前に酔ってるんだろう……
ぐらぐらしてきた」
天音の罠だと気づいた時には遅く膝の上に抱えられていた。
マイクを握る彼の息が、首のあたりにかかっている。
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