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第14話
「大体さぁ、天音って横暴なんだよ。ちょっとでっかいからって、首根っこ掴んだり引きずったり……ものじゃないっつーの。連れ込まれた感じだしさ」
酔いに任せて本音が口に出ていた。
真上から見下ろされているのも意識していなかった。
「ふむふむ。生意気な口は塞いでやらなきゃ」
抱え起こされ、近づいてくる顔。
やはりかっこよかった。
ぐうの音も出ない色気もある。
(同い年なのに……)
「ふ……っ……ん」
上唇と下唇を交互に啄まれた。
「カラオケに来たんでしょう……」
とろんとした目で上目遣いで訴える。
「カラオケは失敗だった。気になって歌に集中できない。こいつ……め」
「んん……っ」
舌で舌を愛撫され、飛び起きた。
「……うわぁっ!」
慌てて膝から離れる。
「チッ……このまま流されろよ。空気読めないやつだな」
「別に酔いつぶれてはなかったし、ちょっとほろ酔いになってただけ。そしたら誘惑してくるし……なんなの」
「軽い悪ふざけだろ。怒んな。ほら」
水の入ったグラスを差し出される。
「ありがと……」
無理に飲まされたわけじゃない。ヤケになって飲んだだけ。
(人を面白がる黒い恋人なのに、嫌いにはなれない。くやしいけど)
水をぐいぐい飲んで、一言漏らす。
「ばーか! 天音なんて……だ、だい……嫌いなわけないだろ……!」
「くくっ。かわいいな」
「離れてる時も忘れられなかったのに今更、嫌いになれるかよ。ばかー」
胸板をぽかすか殴る。
常に余裕で、こっちを翻弄してくる最愛の男(ひと)。
「もう気分は平気か。一緒に何曲か歌って帰ろう」
「フードバスケット、食べてからね。お腹ぺこぺこ」
「……次もあるし体力つけとかないとな」
「次?」
ポテトと唐揚げを交互に頬張る。
天音もこっちを見てようやく食べ始めた。
「……ジャンク万歳。どうせ冷凍食品だろうけど、こういうとこで食べると美味いよね」
「分かってても言うなよ」
「唐揚げにレモンくらいつけてほしかった……いいけどさ」
箸でつまみながら食べる。
唇は既に油まみれだった。
「しょっぱいの食べたら糖分欲しくならないか?」
「お店特製パフェがメニューにあった気がする。適当に注文しといて」
「了解。量が多そうだから、分けて食べよう。
スプーン二つ付けてくれるように電話で言うから」
運ばれてきたパフェは、ハート型のプレートチョコレートが乗っかったビッグサイズだった。
「あーんしてやろうか?」
秀麗な顔が、迫ってくる。
スプーンでパフェをすくってこちらに向けていた。素直に口を開けてみたらパフェが放り込まれる。生クリーム部分が美味い。バニラアイスもいい感じ。
「天音も食べろよ。僕ばっかじゃなくて」
「零が残したら食べるよ。今はお前を甘やかしたい」
「……っ」
酔いは醒めているのに頬が火照っている。
「……食べたら歌うんだから今はドキドキさせないでよ」
「ドキドキするようなことしたか?」
にこーっと微笑まれたら、何も言えなくなる。
「それ! そういうのがやばいの」
ぱくぱく食べ進め、天音にパフェのグラスを渡した。
「一人じゃこんなの食えるわけないな」
半分ほど残ったパフェを食べ進める天音。
「キレイな愛じゃなくても」
タブレットから選曲しキーは標準に設定した。
ロックデュオの随分前のアルバム曲だが、
意味深な歌詞が存在する。
「……一緒に歌ってくれる」
急に振られたのにもかかわらず天音は快くマイクをオンにして一緒に歌い始めた。ボソッと小声で言われる。
「顔真っ赤だぞ」
デュエットの前に難関曲を入れてしまったようだ。天音の方が声質は低いからきつそうだったが、難なく歌ってくれた。
音程外したこっちが恥ずかしい。
「……うまっ!」
「それはどうも」
「……真っ赤なのは照れたから。
デュエットなんて初めてだし」
「……ふうん」
「あと、これは禁断の愛の曲って噂だからさ。
確か不倫とか。考えたら切なくなる」
「一途に互いだけを思ってんだから、ほかは何にも関係ない。いちいち歌で変な想像するな」
「……そこまでは考えてない。
でも絶対別れてなんかやんないから」
「こっちのセリフだけど? 俺に捕まった以上、今更、逃れられると思うなよ。覚悟しておくんだな」
強く言い切られ、怖いのではなく嬉しかった。
抱きつきたくても今はやめとくことにしたけど。
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