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第15話

カラオケはフリータイムで入室していたので、何時に出ても自由だった。だが二時間程で愛する男が、痺れを切らしたので帰るしかなかった。 テーブルの上のフードメニューはお行儀よく、完食した。 ドリンクバーの所にある水は自由に飲めたので、喉の乾きはそれで湿した。 ノリで飲んだアルコールはとっくに醒めていて、ケダモノの餌食にはならずにすんだ。 (すぐなだれ込もうとするんだから! 頭の中身も下半身に支配されてんのかな……。 エロい事ばっか考えてるくせに身長は、きっちり伸びてるし不公平な世の中だ) 車の助手席でほんやり窓の景色を眺めていた。 「さっきから無言じゃん。そんなに嫌だったのか?」 「……カラオケは歌を歌いたいわけでね……すぐ手を出そうとするのは」 「素直じゃないなあ。零もいちゃつきたかったくせに」 「……場所は選ばせて! 天音になら何されてもいいんだからさ」 「本気にしてもいいのか?」 「……まあね。酔ってなくてシラフだしね」 車は停止線で停まった。 前も後ろも車に挟まれている。 どうやら渋滞を起こしているようだ。 ふん!と強気に答えたら運転席のS系の男は笑った。 「……っ、な、どこに手ぇ入れてんの」 「お前の服の中?」 しゃあしゃあと答える。 ボタンを三つほど肌蹴られ大きな手が肌をまさぐってた。 「3分くらいは平気だろ」 「な、何言って……っ」 唇を塞がれた。 胸のとがりを指が擦ってはつまみあげる。 「ほら、お前も舌出せ」 「んん……ッア」 天音の舌が強引に舌をすくい取り、もつれあわせることになる。 (都合のいいとこしか聞いてないな……もう) 顎を伝う滴は、舌がなめとる。 首筋までキスされたら、じん、と身体が熱くなった。胸の辺りを撫でていた手は下半身に伸びかけたので流石に手で押える。 「……汚れるかもだから」 「ちゃんとウェットティッシュもあるし」 (そういう問題なのかよ!) 深いキスで息は荒くなっていた。 「ってのは冗談ね。 さすがに興奮状態で車を降りられないし、ここまで」 「……っ!」 いいように遊ばれただけだった。 何事もなかったかのように運転席に戻った天音は、ギアを入れ替えゆっくりとアクセルを踏んだ。 (振り回されすぎて心臓が持たない……) 「天音は僕のことを好きなんだよね?」 「好きに決まってんだろ。どうせならどこかに閉じ込めて可愛がりたいくらいだ」 「あ、危なっ」 「運転は問題ないと思うけど」 (うーん。すっかり天音の術中にはまっちゃったのかな。本当に嫌なら拒否るし言い寄られても、 流されることはなくその場で断ってきた) 夜の闇の中、車はひた走る。 15分くらい経った頃、車はでっかいビルの前で停まった。全面ガラス張りの高層ビルだ。 「……会社? まだ明かりはついてるね」 街灯に照らされて正面の文字が確認できた。 高層ビルの正面入口には進藤ホールディング株式会社と書かれていた。 「うちの親が経営する会社。 そこそこ利益あるし、上場企業ではあるみたいだ」 天音は他人事のようにつぶやく。 「……いや、そこそこなんてレベルじゃないでしょ。大企業だよ」 「俺は長男じゃないし継がなくていい。そこそこ気軽な身分なんだよ。兄貴の手伝いがスムーズにできるように社会勉強でバイトするけどさ」 「うん。で、降りるの?」 「……最上階が社長家族が居住するエリアなんだよ。持ち家は別にあるけど進藤家の人間は自由に出入りできるんだ」 天音が見せてきたカードキーを見つめた。 天音が車を開けて運転席から降りたので あわてて助手席を降りた。 ビルの中に入る彼について行く。 警備員は天音を見て会釈をしていた。 エレベーターに乗ると、やけに息遣いが響く気がした。 「大丈夫。悪いようにしない」 「いや、それよりさ。僕も中に入っていいの?」 「家みたいなもんだし、平気だ。今日は誰も来ないし、心配しなくていいぞ」 「計画的犯行だよ!」 「ほら、使える権利は利用しないともったいないだろ」 エレベーターは最上階にたどり着いた。 立派な扉が並んでいる中、奥の扉の前で天音は足を止めた。 「ここが俺の部屋」 持っていたカードキーで扉を開ける。 足がすくんでいたら背中を押され、つんのめるように中へと入った。 (やっぱり横暴!) 照明のスイッチを入れて室内が明かりで満たされた。 でっかいベッドとレザーのソファ、テーブル、デスク、テレビ、デスクトップパソコンがあり、キッチンスペースも設けられていた。 「住めるね……ここ」 「いつでも家出してこいよ。大歓迎だ」 冗談とも本気ともとれないことを言われた。 「家出するような事態にはならないから大丈夫だよ。家族円満。ありがたいことに大学まで行かせてもらってるし早く恩返ししたいんだ」 「いい子だな」 「普通のことだよ」 真面目に返したら、頭を撫でられた。 ソファに二人で座る。 「そういや、うちの大学の卒業生で興味深い人物いるぜ。 卒業生なんだけどさ」 「誰だっけ。その人、会ったことないと思う」 「ああ知らないかもな……。俺も偶然話す機会があっただけ」 「気になる?」 一旦話を切った天音は意味深に笑った。 「僕たちにもなにか重要な話になるっぽいし」 「鋭いね。そういうとこ好きだぜ。 うちの大学を卒業して今は院生。博士課程を取ろうとしてて今年25歳。つまり3年生だから卒業は3年後の春だな」 「うわ。優秀な人だな」 「優秀なのは間違いがない。けれど、プライベートでは色々あったみたいで。俺たちと同じ境遇だったって言えば分かる?」 「……同性愛者?」 「一人しか好きになってないからゲイではないというのが、彼の主張だった」 天音は、その人のことを語りだした。 5歳年上の先輩の話は、悲しくて苦しくて勝手に涙が出てきた。

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