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第16話

「くつろいでいいから寝転んどけ」 広いベッドを指し示されたのでお言葉に甘える。 身体を横たえただけで、眠気に襲われる。 ベッドの端っこに座り天音は、話し続ける。 それに対して僕はだらしがない格好だ。 左向きに横たわって肘までついてる。 「腹減ってたら、菓子でも食う?  こないだ西日本の親戚がカー○を送ってくれてさ。  ちゃんと皆大好きチーズ味」  投げ渡されたカー○の袋を受け取る。  さすがにだらしがなさすぎるので起き上がった。 「ゴミ箱もあるかな」 「はいはい」  小さいゴミ箱を引き寄せて置いてくれる。 「カー○って西日本にしかなくて、  フェアとかでしか買ったことないんだよ。  何年ぶりかなあ」 「そんなに嬉しいのか。箱でもらったから、  何袋か持って帰れば。俺もそんなにいらんし」 「いいの。なら天音が大丈夫なだけもらおうかな」  カー○のチーズ味の袋を開け、ひとつ手に取る。  ぱくり、放り込んで咀嚼する。指についた粉も味わう。 「……これくらい緊張がゆるまないと。  シリアスすぎたからな」  独りごちる天音に、先ほどの話を反芻する。 「辛いなんて他人が口にすべきじゃないね。  相手の人が悪いとも思えない」 「お前、案外大人だな。  そうかもしれない。  実は、先輩より恋人だった彼の方に  面識があったりするんだよな」 「上流階級の繋がり?」  天音はうなずいた。 「嫌いになって恋人関係を解消したんじゃなくて、  友達としてまたはじめるって、よくできるなとは思う。  好きな人と、もう触れ合ったりしないんでしょ。  友人だから、恋人とは別の距離感で。  僕、ぜーったい無理だし」  理解できない。  終わった後始めた関係性はもしかして、  いつまでも離れないという約束なのだろうか。  黙り込んだ俺は頬をつねられて悲鳴を上げた。 「っ……いきなり何するんだよ」 「そんな悲しく思い入れしなくていいんだよ。  あの人、別れてすぐ次の相手見つけてるし、  過去の想い出として語ってたんだからさ」 「えっ……つよ。強すぎる」 「攻めと受けの両方をできたってのが大きいんじゃないか」 「……そういう話もしたの」  ごふ。思わず咳き込んだ。 「何、こんくらいで動揺してんだよ。冗談に決まってんだろ」  髪から首筋まで撫でられた。 「でも当たってるんだろうな。絶対、あれはSだ。  腹黒な感じがだだ漏れててやばかった」 「ちょっと話してよくそういうの分かるね」 「何度か会ってれば、分かる。  白い中に一滴落ちた黒って中々取れないんだよな」  よく分からないことを言われてもやもやした。 「ちょっと待って。何度も会ったの……?」 「おや、嫉妬(ジェラシー)?」 「ち、違うってば」 「俺は弟みたいだって。  お前のことも気にしてたぜ。  俺らの話をするついでに話してくれた感じだった」 「……その人が過去付き合っていた人のこと、知ってるんだよね?」 「ああ。病院を経営する一族の御曹司。  小学校二年の頃、俺も集まりで遭遇したことはある。向こうは中一だった」 「……なんか見えた」 「兄貴は同級だけど、中学からは学校が離れたからよくは知らないらしい。  ただ一度見たら忘れられない存在感はあるって言ってた。  それには俺も同感……。子供の頃しか知らないけど先輩の話聞く限りそうなんだろうな」 「どうでもいいや」  心底どうでもよさそうな僕を天音は笑い飛ばした。 「うん。どうでもいい。俺らとは無関係」  ばんばん、と背中を叩いてきたので  カー○が咽せた。  ごほごほ言う僕にペットボトルの蓋を開けて渡してくれる。  ごくごく勢いよく飲んだ。 「そういや、こうも言ってたぜ。  『彼は色んなことを教えてくれて感謝してる。  そのおかげで恋を成就させることもできた』」 「しっかりした大人だね。憎んだりもせず友達になって  相手のことも認めてる」 「子供のままいたいけど、そうもいかないのが人間だよな?」  ふらちな指が、衣服に伸びてくる。  背中を指で辿られたら、びくんとしてしまう。 「……何でシリアスモードからこっちに持ち込めるんだろう……っ、そこやめて」 「もうこんなに熱くたぎってる。しょうがないなあ」  指をいやらしく動かさないでほしい。 「俺、お前が他の男(やつ)に抱かれてんの想像するだけで、  殺したくなるんだけど。よく離れてたわ」 「ひえええ……」  悲鳴を上げた唇は塞がれた。  なまめかしい舌の動きが肌に火を点(とも)す。 「離れてたから、手放しちゃ駄目なのわかった。  何が起きてもずっと一緒にいような」  背中をぎゅーっと抱きしめられて抱きしめ返す。 「……天音が別の人と付き合ってなくてよかった。  かっこいいから、心配だったんだ。もう無理だろうなって」 「どうでもいいやつに隙は与えない。見ないし」  言い切った天音の言葉は真実味があって、  これからも抱かれたいし腕の中にいたいって希う。 「あっちと比べてマシとかそれも違う。  結局自分が揺らいだら全部ぶっ壊れるのは同じだ」 「そうだよ」  バサリ。シャツを脱ぎ捨てる姿も色っぽかった。  照明は消してくれて窓からの夜景の光だけ。  カラオケや車で散々煽られていた身体は、  素直に応え始める。  手首を捕まれてキスをされても、  全部を受け入れる自信があった。 「乱暴だけど許してあげてもいいよ」 「お前を手懐けられるの俺だけだしな」  さっきカールを食べたばかりとか、どうでもいいや。 「腹は満たせたし動けるな」  ちょっと待ってろと耳元でささやき  天音は侵略の準備を整えた。 (相変わらずの早業……!)  ぐい、と腕を引かれ身体が入れ替わる。  腰に触れたそれは熱く、こっちを大差ない温度だった。  突き立てられた次の瞬間、望み通りに喘いでいた。  何もかもどうでもよくなるくらい、  激しい速度で、連れて行かれる。  瞳からは勝手に涙が落ちていた。 「お前も動けよ……もっと、欲しがれ」  甘い声で命じられ操られて腰を振る。  天音はご褒美をくれるみたいに、奥をめいっぱい突いてくれた。        

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