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第9話
「お邪魔します」
「何か飲むか?酒とか?」
「えっと、ミネラルウォーターありますか?」
「了解。ならそこのソファに座って待っていてくれるか?」
「はい」
早瀬はゆっくりと腰を下ろして辺りをキョロキョロと見渡していた。
一人暮らしの男の部屋にしては俺は綺麗な方だと思うんだが見られていると恥ずかしいかもしれない。
「見渡しても面白いものはないからな早瀬」
「あっ、はい。すみません」
顔を真っ赤にして慌てて下を向く姿は、はるちゃんと重なる。
あまりにも仕草が似ているからはるちゃんと早瀬を重ねてしまう。
俺、重症だよな・・・・。
そんな事を思いながら冷蔵庫からミネラルウォーターを手に持ち早瀬の元に戻ると本棚の横に立ち何か手に持っていた。
「何か見つけたのか?」
「これ・・・」
俺の目の前に差し出されたのは、はるちゃんの虫カゴだった。
捨てる事も返す事も出来なくて部屋に飾ってあった虫カゴ。
「これは、大切な人のだ。謝りたかったがもう会えないと言うかあって貰えないかな?」
「大切な人?」
「親友でもあり俺の初恋相手であるんだが酷い事をして傷つけてしまった」
「は、はつ・・・初恋相手?」
「そうだな、酷い事をした後に気づいて謝ろうとしたら居なくなってしまった。後悔しても遅かった。素直になれば良かったと今でも思う」
そう話すと早瀬は虫カゴを持ったままゆっくりと床に座った。
「大丈夫か?」
「どう・・・し・・・・て・・早く・・・」
虫カゴを抱きしめてポロポロと大粒の涙を流しながら早瀬は消えそうな声で呟いた。
俺は同じ様に床に座り早瀬を腕の中に引き寄せて落ち着くまで待った。
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