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ナイトプールの工作員

「え?弟??人生??意味分かんない!!やだ、やだやだ!!」  びっくりするほど力が強くて、怖くてただただ体が震えていた。雄賀多さんに肩へ担がれ飛び降りようとすればふとももを引きちぎる勢いでつねられる。痛みから解放して欲しくて「ごめんなさい」とひたすら謝る。  ゆっくりとベッドに寝かされたが、反省の意味も込めてすぐに正座になった。涙がポロポロとあふれ出てふとももを濡らしていく。 「ごめんね、痛かったよね」  涙を拭こうと人差し指が目の近くまで近づいてきた。顔を背けたい思いでいっぱいになるけど、そんなことをしたら怒られるのは目に見えてるから怖いな、と思いつつ目をつむって耐える。フルフルと震えるまつげをツーっと指の腹でなぞられて、唇を噛み締めた。 「唇を噛み締めちゃダメだよ?後でしゃぶってもらうんだから」  今度は噛み締めた唇の間に指をねじ込まれ開かされた。開いた口は恐怖で震え、コントロールができない。舌に感じる雄賀多さんの指の味がオレの体を支配していく。 「じゃあ、今着ている水着脱いじゃおうか。暁音くんはシャワー浴びない派みたいだし」 「っつ……!」  今日の今日までシャワーを浴びなかったことを後悔しない。次から絶対シャワーを浴びてからセックスする。 「僕に返事は?」 「は、はいっ!」  ベッドの上に立ち上がって、まだ乾いていないショート丈の水着に手をかけた。雄賀多さんはベッドに腰掛けてオレを見上げている。その視線の先は嫌と言うほど下半身に向けられていた。 「脱ぐの恥ずかしいの?僕とセックスする気まんまんだったのに??」  退屈そうに足を組み頬杖をついてオレを見た。責められている。いや、攻めでいいんだけど。この場に全く関係ないのに、どうしても風太の顔を思い出してしまう。 「顔に出すぎだよ」  雄賀多さんの言葉にハッとして水着を下ろした時にはもう遅かった。オレは押し倒されて、ベッドヘッドに頭をぶつける。ぶつけた痛みで頭を抱えている間に小さいオレ自身をしゃぶられた。  数年間、誰かの手が加わる事が無かったそこに熱い口圧迫、にゅるにゅるした唾液を感じ、まるで理想のオナホと巡り会えた感覚に陥った。 「ひゃぁう!」  もちろん、そんな刺激に耐えきれるはずもなく呆気なく吐精。まだ吸われるような感覚に思わず、雄賀多さんの頭を押しのけた。 「何、僕の命令無しに動くのかなぁ?悪い手は縛らないと」 「ご、ごめんなさい。もうしません……」 「躾は最初が肝心だって言うし、仕方ないよね」  オレの言葉は聞き入れてもらえなくて、枕カバーのシーツを剥がして手を縛りあげられた。こんな自分のみっともない姿、絶望するしかない。 「弟は今でも後悔しているよ、どうして皆にバラしてしまったのかをね」  くくり上げられた後、ポツリと雄賀多さんが呟くように言った。 「バラす……?」 「あれ?僕、てっきり名字を聞いて思い出してるかと思っていたのに、興味ないことは本当に覚えないんだね」  またオレの性格がバレている。『おがた』なんて名字知らない。  どう返事をしようか悩んでいる間、待ちきれなくなったのか雄賀多さんが口を開いた。 「暁音くんに『女の子みたい』って言った同級生覚えてる?」  その言葉を再び聞いた瞬間、鈍器で殴られたように後頭部に衝撃が走りキーンと耳鳴りがした。  授業が終わったチャイムの音。女子が全員出て行き他のクラスのやつらが来る前に着替えてしまおうと思っていた自分。焦りから手を滑らせタオルがはだける。すぐに手で隠し、タオルを拾い上げる。顔を上げた先に感じる視線。見られた自分の下半身。そして――大声で言われる言葉……。  言葉は思い出せるのに、ぼんやりとしていて顔も髪型も体形も思い出せない。  知っているのは「大形」っていう名前だけ……いや「おおがた」なんてやつ隣のクラスにいなかった。無意識に架空のクラスメイトを作り上げいたことに気づく。隣のクラスにいたのは…… 「雄賀多だ……」  あいつに兄貴がいたなんて知らない。なんで、本人じゃなくて兄貴が来た意味が分からない。この後、本人と出くわしたらオレの心臓はどうにかなっちゃいそうだ。 「正解。僕の弟さ、君の短小なちんちん見て『ペドフィリア』に目覚めちゃったんだよね」 「ぺ、どりあ??」  何が気にくわなかったのかは知らないが、オレの股間を痛いぐらいに握りしめる。 「痛い痛い痛い!」 「ペドフィリア。トラウマ植え付けた人の名前も忘れちゃう暁音くんには分からないかな?」  すごくバカにされてるのは分かったけど、その通りだから頷いた。 「幼稚園児以下対象しか欲情しない現象。そのせいで、あいつは今苦しんでいるんだよね。だからさ……暁音くんを連れていったら喜んでくれるだろうな……」  メガネから覗く目は据わっていて本当にやるつもりだ。そんなとこに連れていかれたらオレはどうなってしまうのだろう?連れて行かれた事を想像して、ブルリと身震いをした。 「良かったね。これで暁音くんは風太くんで悩まずに済むよ」 「え?」  突然、風太の事が出てきた。オレと風太の秘密を知っている?? 「あの子、ネコでしょ?僕、ヤったことありますし、なんなら一時期お付き合いしたこともあります」 「嘘だ!」  付き合うなんて風太がするはずがない。こんな風太に似たような格好したやつなんか、風太のタイプじゃない。嫌っているはずだ。きっとお遊びだ。 「何もかも段取りしてくれましたよ。暁音くんのパートナーになって欲しいと。ただ、僕が暁音くんの事を探しているなんて知らないでしょうが」 「風太がオレの……?」  やっぱりお互いこの関係を終わらせたがっていたんだ。同じことを考えていたはずなのに、悲しくてまた涙があふれ出てくる。だけど、もう涙を止める気は無かった。何もかも忘れるように流しきりたかったから。  すると、ドアのチャイムが鳴った。故障かなって思ったけどピンポン、ピンポンと鳴り止まない。雄賀多さんがイライラしながら出てくると吐き捨て、大人しくしとけよと布団を被らされる。

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