6 / 7

ナイトプールの工作員 2

 ドアのチェーンが外れる音がし、まるまって息を潜めていればずっと聴きたかった声が聴こえてくる。 「はーい。雄賀多さんご利用ありがとうございました。お帰り下さいませ」  ……風太の声だ! 「何言ってるの?好きにしていいって言ったの風太くんじゃない。無責任な子って僕、嫌いだなぁ」 「勝手に嫌って下さい」 「あはははっ……!僕をハメるなんて……大人になったなぁ。別れる時はあんなに泣いていたのに」 「もうあの頃みたいな子どもじゃないので」 「でも、開発しつくした君の体はもう今更タチには戻れない。風太はもう分かっているはずだろう?」 「そうでしょうね。筋トレしたり髪を短く切っても体質は変わりませんでした。だけど、やっぱりアカネを盗られたくないんですよ」 「君はこの子をちゃんとした意味で愛せない。君も満足できない。それでもいいのかい?」 「いいからこの場にいるんです。お引き取り願います」  盗み聞きしながらシーツを握りしめる。必死に聞き耳を立てて一言一句逃さないように耳を澄ませた。部屋はいくら冷房が効いていても布団の中は暑い。ポタポタと汗が垂れ、頭がクラクラしてくる。  状況的に顔を出してもいいよな。こっそり顔をカメのように出した。様子を見ようと立ち上がり、壁から覗き込めば雄賀多さん越しに風太と目が合う。  ちょうど風太がドアを大きく開けて、手を外へ払い、お辞儀をし雄賀多さんを見送っていた。廊下には数人の従業員が見えたから引き連れて来たのだろう。 「アカネ!!」  風太はろくに髪を乾かさないで、オレに抱き付いた。そして、枕シーツで縛られていた腕を解放し、一気にせき止められていた血が身体中を駆け巡る。  ボロボロになったオレの体を優しく抱き締めてくれた時に気づいたのは、顔から汗が噴き出していたこと。あの澄ました顔の風太が汗水垂らしてオレのところに来てくれた。もうそれだけで幸せだ。 「アカネ、お前に言いたいことがある」 「なんだよ……今更。オレは悪くないからな」  真顔で問い詰めるように迫ってきたので無駄な虚勢を張る。 「俺はさ、お前の他人に幸せにしてもらおうって考え方が嫌いだし」 「うん」 「すぐ足開くのも同じネコとしてどうかと思うし」 「う、ん」 「ってか一緒にされたくないし」 「う……」  てっきりキチンとした告白をされると思っていたオレは、まさかの展開に心が砕けそうだ。 「人の忠告聞かずに自爆するし、見る目ないし、バカだしでも……」 「ま、まだ続くの??オレのHPはゼロに等しいよ……」 「でも……そういうとこ全部知った上でアカネがいいって思ってるし、それを理解した上で傍にいるんだけど、それじゃダメなわけ??」 「え、そ、それって……?」 「だーかーらー、俺じゃダメなのって聞いてんの」 「でも、風太……パートナーはタチの方がいいんじゃ……」  風太は少し考えた。いらん事を言ったかと不安になる。でもこの先ずっと一緒にいるには避けずにはいられない事だ。 「それはまぁ……アカネに頑張ってもらうとして」 「なんだよ、そこは俺がタチやるじゃねぇの??」 「アカネは俺がタチじゃないと嫌?」 「その質問はズルい。……嫌じゃない」  風太の首に腕を絡めて後ろにあるベッドに倒れ込もうとすれば、引き留められた。オレの体は風太の首に絡みついたまま弓なりになる。 「ここじゃなくて、スイーツに移動しよう」  オレの腰を持ち、部屋にあるクローゼットへ誘導される。中にあったバスローブを着せられ、そのまま手を繋いで部屋を出た。 おわり。

ともだちにシェアしよう!