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噂②

全身の血液が逆流した。 「はぁーーーーーっ????? 何ですかぁ、それぇ!!!!!」 俺の大声に、長谷川さんは耳を押さえてぶっ飛んだ。 「バカヤロウ!!! …耳、潰れるかと思った…………」 長谷川さんは、すりすりと耳を摩りながら、涙目で俺を睨め付けた。 みんなが驚いてこっちを見ている。 慌てて取り繕うように、へらへらと誤魔化した。 「あっ、すみません!何でもありませんから。 どうぞ、お気になさらず。」 長谷川さんに近寄ると、小さな声で 「こっちの台詞ですよ。一体何なんですか?」 「…うちの課長、ほら、見ての通りの美人だろ?ゲイだって噂があってな。 告白してくる女を悉く木っ端微塵に振るもんだからさ…ソッチ側の人かと。 “取引先の社長と寝た”とか、“と一緒に住んでる”とか、いろんな噂が… まぁ、あくまでも噂にすぎんのだが。 お前も結構懐いてるから、てっきりそうなのかと。 なーんだ、違うのか。」 呆れて口をポカンと開けたまま、俺はきっと間抜け面をしていたに違いない。 「…そのツラじゃあ、違うんだな。 ま、せいぜい頑張ってくれ、ルーキー君!」 長谷川さんは、ポンポンと肩を叩くと、ビール瓶をぶら下げ、盛り上がる違う塊へと突進して行った。 『ゲイ』 『ソッチ側の人』 『寝た』 『彼氏と住んでる』 妄想を掻き立てるワードが頭の中で渦巻いていた。 そして何故か、そのことでドス黒い感情が生まれ、俺は勧められるまま、次々とグラスを空けていた。 酒は強い方だから、飲まれることはない。 そう自負していたのに…若干、目の前の風景がクラクラし始めた。 マズい…酔ったか? それでも、()がれるより注ぎ返し、相手を潰しながら、頭はぐるぐるとさっきのワード達が湧いては消え湧いては消え、離れない。 いつの間にか俺の前に、酒臭い屍と化した先輩達が数人転がっていた。 不意に頬に冷たい物が当たり、思わず変な声を上げた。 「ひえっ!」 目の前には…この感情の根源が、氷水の入った水を俺の頬に当てて覗き込んでいた。 「…強いとは聞いていたけど…飲み過ぎ、飲ませ過ぎ。 これ…どうやって家に返すつもり? はぁっ………こっちに切り替えて。」 「…ありがとうございます…」 人の気も知らないで何だよ。 訳の分からない怒りが頂点に達した。 ぐびぐびと一気飲みすると、課長の耳にそっとささやいた。 「…課長…俺と付き合って下さいよ。」 パシッ!! 「……だ。忘れてやる。」 一気に酔いの覚めた俺は、じんじんと熱を持つ頬を押さえ、その人の後姿を目で追っていた。

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