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共鳴①
社食はいつも賑やかだ。
管理栄養士監修のカロリーをセーブした美味い定食とデザートが人気で、空いた席を探すのに一苦労する。
「大輔ーっ!こっちー!」
トレイを持ったまま、空席を探す俺の耳に飛び込んできたのは、同期で従兄弟の若林 弘毅 の声だった。
人混みを掻き分けて辿り着いて
「弘毅…会社では呼び捨てはダメだよ。
苗字で呼べよ、苗字で。」
「お前だって名前で呼んでるじゃん。
どう?本社勤務には慣れた?」
幼い頃は仲が良かった。
成長するにつれて、忙しさに紛れ疎遠になっていたが、偶然入社式で顔を合わせ、また付き合いが復活していた。
「うん。ちょっとずつな。」
「…若林…俺の席はここか?」
突然、腰にクるようなバリトンが降ってきた。
確か…人事の赤石部長…うわぁ…男前…
「はいっ!部長、どうぞ。」
にこやかに答える弘毅の隣に座り、俺をじっと見つめている。
その目には威嚇と警戒の色が見て取れた。
俺、あなたに何かしましたか?
ケンカ売られる覚えはないのですが?
「君は…転勤で営業1課に来た…池本君?」
「はい。配属されたばかりです。
よろしくお願い致します。」
「こちらこそ。で?」
『で?』???弘毅の方を向いてたった一言。
「あ、大輔は従兄弟なんです。
俺の母と大輔の父親が兄妹 で。
しばらく会ってなかったんですけど、入社式で偶々一緒になって。な、大輔?」
「あ…そうなんです。」
「そうか…池本君、人事上の不備の書類があるから、後で俺の所に来てくれないか?
白瀬には話を通しておくから。」
「はい、承知致しました。」
それから何となくギクシャクした空気の中、さっさと食事を済ませた俺は、そそくさとその場を退散した。
何だったんだろう、あの敵意は。
こちらも…俺が勝手にギクシャクしてると思っている白瀬課長との同行はいつも通りで…2件回った後、人事部へ行くようにと帰社させられた。
「失礼します」
1対1で個室に通された俺は、住所を一カ所訂正するだけの書類を瞬殺で仕上げ、席を立とうとした。
「池本君。」
地獄の悪魔のような声(に聞こえた)に呼び止められた。
「君…若林とは何でもないのか?」
「は?」
目をぱちくりさせフリーズする俺に再度
「若林と付き合っていないのか?」
「はあっ!?血の繋がりのある従兄弟ですよ?
男ですよ?何で付き合わなきゃならんのですか?」
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