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共鳴②
ホッとしたような顔をした部長は、顔を赤らめながら
「すまない…余りに仲良くしてるものだから…つい。」
?????
俺の頭は『?』マークで埋め尽くされた。
「えーっと…それって…あの…」
「付き合ってる。」
「あの…まさか…弘毅と…」
「その“まさか”だ。俺達は恋人だ。」
声にならない声を上げた俺を 頬を染めたまま冷ややかに見つめる地獄の使者。
恐ろしいくらいの色気がダダ漏れだ。
こんなの…弘毅でなくても堕ちそうになる。
しどろもどろになりながら
「弘毅をよろしくお願いしますっ!」
と親でもないのに訳の分からぬことを告げて、逃げるように部屋を出た。
まだドキドキしている。
弘毅が…あの弘毅が、男と付き合ってるなんて。それも、あの部長と。
鳴り止まぬ鼓動を押さえる術もなく、デスクに戻った。
「…け…と…、いけ…と…、池本!」
「はっ、はいっ!」
「何ぼんやりしてるんだ。用事は終わったのか?
こっちの書類、さっさと纏めろ!
今日中にやらないと納期に間に合わないぞ!」
「はいっ!すみませんっ!」
帰社したばかりっぽい課長の檄 が飛ぶ。
渡された書類を傍に置いて、言われるまま仕上げていく。
全て終えて気が付くと、課長と俺だけになっていた。
「ありがとう。お前のお陰で間に合いそうだ。
急に残業させて悪かったな。
飯でも食いに行くか。」
微笑む課長は天使みたいだ。
「マジですかっ!?ぜひ、ぜひお供させて下さいっ!」
「“お供”って…お前、桃太郎の犬かっ。
…きび団子はないけどな。ま、美味いもの食わせてやるよ。」
きっと俺のケツから生えた尻尾は、ご機嫌な余り、千切れそうにぶんぶん振られていることだろう。
慌ててジャケットを羽織ると、先に出て行った課長の後を小走りに追い掛けた。
「ここのな、定食が美味いんだよ。」
そう言って連れてこられた洋食屋は、俺達みたいなサラリーマンで満席だった。
値段の割にボリューミーなおかずに、他の店なら これは(大)というようなライス(並)が付いて、かなりのお得感だ。
いつもより饒舌でご機嫌な課長に勧められるままワインも空けて、支払いも課長がしてくれた。
支払いを終えるまでは、彼は確かに しゃん としていたのだ。
アルコールに弱そうだったのに、飲んでも大丈夫だったのか?
不安が的中し、歩くのも覚束ない課長を抱え、家も知らないから仕方なく俺のマンションにお持ち帰…いや、連れ帰った。
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