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第5話

5  ぽすりと、柔らかなベッドに下される。皺になるから、といってボタンを外されて脱がされたジャケットが、犬塚さんの手によってハンガーに掛けられた。一つ一つの仕草が丁寧で、それにまた、気恥ずかしさを煽られる。ワイシャツもスラックスも、靴下まで脱がされて、結局は灰色のボクサー一枚の格好になってしまった。初夏とはいえ、肌寒い。ていうか、はずい。  ジャケットとワイシャツを脱いだ犬塚さんが、俺の上に覆い被さってきた。ゲームばっかりやっているはずなのに、無駄のない身体つきで、ずるいと思う。犬塚さんはふと笑って、俺の頬を撫でてきた。 「緊張してる?」 「しないわけないでしょー」  犬塚さんは肩を揺らして、顔を傾けてキスしてきた。触れるだけの優しいものだったから、安心して俺も唇を触れ合わせる。上唇が食まれ、剥き出しになった上半身を犬塚さんの掌が撫でてきた。ぞわぞわする。全体を撫でていた手の指が、胸で止まる。 「んっ、……胸、ないよ」 「知ってる」 「っ、」  当たり前のように言って、身を捩る俺を逃がしてくれない犬塚さんの手が、乳首を撫でてきた。女の子のとは違うくせに、触られるとぞくぞくする。あっという間に赤く腫れて、犬塚さんの指を押し返す程になった。  ちゅ、と甘い音を立てて口付けを解くと、犬塚さんの唇が顎を伝って喉を滑り、今まで指先で撫でていた片方の乳首に触れてきた。触れるだけじゃなく、ちろりと出てきた舌先が擽ってきて、初めての感覚にじんじんと頭まで痺れてくる。 「んっ、……ふ、」 「胸、感じる?」 「知らな、……ぁ、」  俺の身体が震える度、犬塚さんが嬉しそうに目を細める。恥ずかしいから、止めて欲しい。ぬるりとした咥内に含まれて、硬い歯で甘く噛まれて、思わず背筋が反る。 「んっ、ぁ、そこばっか、やだ、」 「気持ちいのに?」 「ッん、」  ふるふると首を横に振って否定するけれど、下着の中でぱんぱんになったものは誤魔化せない。勿論犬塚さんもとっくに気が付いていて、胸を触っていた手が、腹を通って其処に辿り付いた。じわりと先走りで濡れた下着越しに揉み込まれて、内腿が震える。 「ぁ、ふ、」 「もう濡れてる」 「だ、って」 「気持ちいんだろ」 「ん、うん、」  もうそこは否定できない。  こくりと頷いて認めると、犬塚さんが嬉しそうに笑った。そんな顔、ずるい。気恥ずかしさで視線を逸らし、顔半分をシーツに埋める俺に構わずに、犬塚さんの手が、俺のボクサーを脱がしにかかった。少し下にずらされただけで、反り勃ったものが外に出る。先走りに濡れた先端が空気に晒されるだけでぞわりとした。そんなものを直接握り込まれて上下に擦られるから、堪らない。 「ぁ、あっ、ぃぬづかさ、」 「ん」 「ふ、……んっ、ん、」  あられもない声が出てしまいそうで、俺は両腕を持ち上げて犬塚さんにしがみついた。顔を肩口に埋める。それでも犬塚さんの手の動きは止めず、しかも、裏筋を擽ったり、袋を撫でたりと、イイところを的確についてくるものだから、先端から溢れ出る雫が止まらない。とろとろとしたそれが、犬塚さんの指を濡らしてしまう。 「ん、んっ、ぁふ、」 「秋、……我慢しなくていいからな」 「ぁ、だめ、だめ、待っ、――っぁ、あ!」  耳元で囁いてくれる声は優しくて、それだけで背筋がぶるりと震える。濡れた竿を強く上下に擦られた挙句、鈴口に爪を立てられて、更には耳を甘く噛まれ、――イった。頭が真っ白になって、先端から熱い白濁を吐き出し、犬塚さんの手を汚してしまう。 「っは、あ、は、ふ、」  荒く呼吸をして、力の抜けた身体がぽすりとベッドに沈んだ。ううう。いつもは、こんなに早くねーからね!  赤くなった顔を隠すべく腕を持ち上げると、すぐにその腕を、犬塚さんに退かされる。 「秋、顔見せて」 「やだ、」 「かわいいのに」 「かわいくなくていい」  俺男ですー。  顔を背けると犬塚さんが笑って、鼻先に口付けてきた。顔を傾けて俺からは唇へのキスを返すと、犬塚さんは少し驚いた顔をした後に、また口付けてくる。 「ん」 「なあ、秋」  そして熱っぽい声で囁いてくるから、ぞくりとした。  俺の出したもので濡れた指が、内腿を辿り、その奥の窄まりに触れてくるから、身体の動きが止まる。 「続き、してもいいか」  耳元で熱っぽく請われて、俺は息を呑む。  どうしても、怖いし、緊張する。  男相手なんて初めてだし、そもそも其処って、入れる場所じゃないし。  俺が返事を躊躇っていると、犬塚さんが、濡れた指を押し込んできた。 「!」  痛くはない、でも怖い。  硬く窄まった其処を広げるようにくにくにと動かされるのが未知の感覚で、口角が下がる。ぎゅ、とシーツを握り締めて堪えるけれど、ず、と更に奥まで指が入れられると、もうダメだった。逃げ出したくなって、腰を浮かす。 「秋?」 「や、だ」  絞り出した声が、震える。  緊張するのと怖いのとで、身体が強張った。犬塚さんは俺の顔を見て、目尻に口付けてきた。な、泣いてないよ。 「怖い?」  そう問いかけてくる声は、やっぱり優しくて、今度こそ目尻にじわりと涙が滲んでくる。ううう、情けない。 「ごめん」 「謝られる方が傷つく」 「ごめ」  ん、と言いかけた唇が、犬塚さんの口に塞がれた。何度か啄まれると同時に、後ろの違和感が消えて、指が抜けていったのを知る。うう。すげえ申し訳なくなって、俺は犬塚さんを抱き締めた。 「いいよ、無理矢理するのは趣味じゃない」 「ううう、でも」 「ああ、そうだ。申し訳ないと思うなら、一つ、俺のお願いを聞いてくれないか」 「なに?」  犬塚さんからの、お願い。  すごくすごく、珍しい。  首を傾げて聞くと、犬塚さんはにっこりと笑った。  ああやっぱり俺はこの人の笑顔が好きだ。  と思った途端、腕を引かれて、体勢が変わった。 「い、ぬづかさん、これは……?」 「俺のに慣れてもらおうと思って」 「え」 「中には入れないから」  二人とも横になって、犬塚さんに背中から抱き締められる形になる。耳元で囁かれるのはすごく擽ったい。ぞわりとして肩を竦めると、尻に硬くて熱いものが当たっているのがわかる。紛れもなく、犬塚さんのだ、これ。 「いぬづかさ、」 「肌綺麗だよな、秋」 「初めて言われた、……わっ、」  俺の内腿を撫でる手が、俺の足を開く。内腿の隙間に、硬く反りかえった犬塚さんのを挟む形になって、驚きに目を瞠った。  その熱さにもだけど、出したばっかりで萎えている俺のが、単純にも熱を取り戻しかけていたからだ。  犬塚さんのはもう先走りが滲んでいて、犬塚さんが腰を揺らすと、俺の内腿で擦られる。 「ぁ、犬塚さん、これ、」 「やってるみたいだろ?」 「ん、うん、」  すげえ、興奮する。  滑りも伴って俺の内腿の間から、犬塚さんのものが出たり入ったりする様は、はっきり言ってエロい。再び上向き始めた俺のものを犬塚さんの手が再び握ってきて、出し入れする動きに合わせて緩く上下に動かしてくるから、その度に内腿に力を入れてしまう。  頭がじんじん痺れてきて、口を閉じることも敵わない。  コレだけでこうなるなんて、最後までやっちゃったらどうなるんだろ……。  怖いはずなのに、その先を想像して、ぞわりと腰が震えた。 「しゅう、」 「ん、……ぁ、いぬづかさ、」 「ん、……好きだ」 「ぁ、俺も、俺もすき、だいすき、」 「っ、可愛いこと、言うな」  短い呻き声と共に、一際大きく腰を揺らされた直後、熱い迸りが犬塚さんのものから吐き出されて、それと同時に俺も再び達した。俺の内腿や腹が、二人分の白濁でどろどろになる。 「っは、あ、は、あ」 「あー……ごめん、我慢できなかった」 「ん……」  お互い荒く息をしながら、後ろからぎゅうと抱き締められる。耳元で囁かれる謝罪に、俺は慌てて首を横に振った。 「が、我慢してくれたじゃん!」 「素股は我慢に入りますか」 「は、入ります……」 「よかった」  しみじみと零すのは恥ずかしいからやめて欲しい。ぎゅ、と強く抱き締められるけれど、顔が見えないのがもどかしくて、腕の中でくるりと反転した。向かい合う形で、俺からも犬塚さんをぎゅと抱き締める。 「さ」 「ん?」 「最後まで出来なくて、ごめん……」 「いいよ、気長に待つから」 「ありがと」 「俺が初めてって、気分良いしな」  笑い混じりに言う言葉は、きっと本音だ。  犬塚さんが俺の髪に髪を埋め、穏やかな顔をしている。 「なんか、俺」 「ん」 「すきだなあ」 「突然だな」 「すげーそう思ったんだよ」 「実はな、秋」 「うん?」 「俺も、すげー好き」  こつり、額同士を擦り合わせて告げられた告白に、思わず笑う。  こんな甘い時間は、久々だ。  仕事の疲れも、全部全部、吹っ飛んだ。  どれもこれも、犬塚さんのおかげ、だ。 「他のやつに、流されるなよ」  あんまり心地よくてこのまま寝ちゃいそうになったとき、ぽつりと犬塚さんが零した言葉が耳に入って視線を持ち上げた。  いつもは余裕な犬塚さんが、少し気恥ずかしそうな顔をしている。 「やきもち?」  そういや、あのよくわかんない後輩に、よくわかんないことを言われてたんだった。  思わず思ったことをそのまま口にすると、犬塚さんが項垂れる。 「そうだよ。悪いか」 「え! 悪くないよ! うれしい!」 「嬉しいってお前な」 「あ、ごめ、でも、……俺だけかなって、思ってたから」  言うつもりがなかったのに、犬塚さんにつられて、つい零してしまった。  犬塚さんが、意外そうに俺を見下ろしてきた。 「……やきもち?」 「犬塚さん、やさしーから」 「暇なだけだよ」 「かわいこちゃんに浮気したらダメだよ」  ごにょごにょそういうと、犬塚さんが笑う気配がする。 「秋が忙しい間、適当に遊んでるだけだよ」 「わかってるよ、わかってるけどー」 「けど?」 「り、リアルに発展したらダメだからね」 「ネトゲの中だけならいいの?」  釘を刺す俺に、笑い混じりの犬塚さんの問いかけが振ってくる。  ネトゲの中だけ。  シノさんが、可愛らしい女の子のキャラと寄り添う図を想像して、ぞわりとした。慌てて首を横に振る。 「そ、それも、ダメ」 「っふ、……かわいいなあ」  改めて言うのは恥ずかしいからやめてほしい。  犬塚さんが俺をぎゅっと抱き込んで、鼻先に口付けてきた。 「秋と、アキだけだよ」 「犬塚さん、」 「ほかの誰に何を言われても、何も感じない」  囁く声色が、胸に甘く刺さる。  俺も犬塚さんの背中に腕を回し、抱き返した。 「お前だけだ」 「俺、も」 「ん」 「俺も、犬塚さんとシノさんだけ」 「ん。……明日、一緒にゲームするか」 「! うん! する!」  犬塚さんからの誘いは思いがけないもので、それでいてひどく嬉しいものだった。  思わずぎゅうぎゅう抱き付いて、くっついたまま、気が付いたら眠りに就いていた。

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