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第14話
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――今日の犬塚さんは、いつもと少し違った。
いつだって優しい手つきが、少し性急で、いつだって優しい目許が、少しだけ、ギラついている。
シーツの皺も、いつもよりも少し多めに乱れているし、――俺の意識も。
「んっ、……ッ、ん、んっ、」
「声、出していいのに」
「や、……ッ!」
このまま声を出していたらそれはもう酷いことになりそうで。
うつ伏せにさせられた俺は、腰を高く掲げる格好で、枕のカバーを噛んで羞恥に堪える。もう色が変わっているけれど、気にしちゃいられない。こうしないと、あられもない声が響くことは明白だ。
犬塚さんは、俺の身体全部に口付けて、思考も身体もとろとろになった頃、俺のものにも口付けてきて、頬張った。いつかされたときよりも激しく、強めに吸われて嬲られて、元々我慢強くない俺は、すぐイった。
息も整わないうちに身体をひっくり返されて、今。
これから犬塚さんを咥え込むところを、それはもう丹念に、丁寧に、解されている。――枕元に出していたワセリンには目もくれず、俺が出したものを潤滑油代わりに、縁を撫でてなぞって、ゆっくりと一本目。
中を引っかけるようにされる違和感に腰が引けるけど、お構いなしで、犬塚さんの綺麗な指が輪を描いていく。ず、ず、と中を進む指の先が、こないだ見つけられた俺の弱いところを突く。その度に身体が跳ねて、大変だ。
「ぁ、ん! ……ぃ、ぬづかさ、」
「もうちょい、我慢して」
「う、ぅ……」
枕から口を離し、救いを求めるようにして犬塚さんを振り返るけれど、その犬塚さん自身が、余裕のない顔をしていた。つい、下腹部を見ると、スウェットが膨らんでいる。それを認識して、ぞくりとした。
犬塚さんが、俺で興奮してる。
その事実だけで頭が痺れて、きゅぅ、と、ナカに入る犬塚さんの指を締め付けた。
「ッ、秋、」
「ん、いぬづかさ、――ッ、んぅ!」
犬塚さんが俺の名を呼んで、無理矢理の体勢で口付けてくる。応える間もなく唇が割り開かれて、咥内に入り込んできた舌が、動き回る。混ざり合った唾液が口端を汚した。飲み込み切れない。
深くて濃厚なキスに気を取られている間に、ナカに入り込む指が二本に増える。うねる内壁を広げられ、無意識に力が籠もるけど、更にその奥を暴いてきて、背筋が震えた。さっき出したばっかりの俺のは、早くも硬くなっている。腰が揺れる度、シーツに擦れるのが気持ちイイ。
「っふ、ぁ、っは、」
「は、……秋、」
「ん、うん、――ッ、ひ、ぁ!」
やっと唇が解放されて、蕩けた瞳で犬塚さんを見る。口も開けっ放しで唾液が垂れてて、きっとひどく情けない顔をしてるんだろう。
掠れた声で名前を呼ばれて、ああ、その声も好きだなあ、なんて思っている傍らで、ゴリッときた。
犬塚さんの二本の指が、俺のイイトコロを、挟むように刺激する。びりびりと痺れる快感が駆け巡ってきて、身体が跳ねるのを誤魔化せない。
「っや、ぁ、や、」
「良さそう、だな」
「ッん、んっ、……よ、くな、……っあ!」
犬塚さんが安心したように言うのが無性に恥ずかしくて首を振るけれど、犬塚さんは聞いてくれない。
既に二本の指が自由に行き来できるほど広がった其処に、三本目を入れてきた。瞠った瞳の端から、じわりと涙が滲む。犬塚さんは当然のようにそれを舌先で拭って、優しい仕草と裏腹に、三本の指をばらばらに動かし始めた。
「――ッふ、……んっ、う、」
また、枕カバーに頼るしかない。
強すぎる快感から逃れたくて、濡れた布を噛んだ。
どんなに恥ずかしくても怖くても、今日は逃げないって決めたんだ。
「ッ、ん、……んんっ! っ、う、ぅ」
――いや、正直すげえ逃げたいってか、穴があったら入りたいぐらいなんだけど。
三本の指は、孔を広げながらも、的確に前立腺を突いてくる。覚えたばかりの快感に、俺の身体は簡単に反応してしまう。辛い。
前も触りたくて、無意識に腰を揺らし始めたところで、犬塚さんの指が、ゆっくりと抜けていく。ひくり、異物感がなくなった孔が震えた。
「んっ、……ぃ、ぬづかさ、」
「秋、……いいよな?」
「ん……、……あっ、……ダメ!」
「は?」
顔を上げて犬塚さんを見ると、犬塚さんが俺の身体の向きを変えた。向き合う形になって、熱い眼差しで俺を見つめてくるから、ついすぐさま頷きそうになるけれど。
ストップを掛けて、俺はベッドサイドを探る。
何年か前かの名残の品、持ち出すなんてデリカシーがないと怒られるかもしれない。
でも、初めてでナマはちょっと……。
「俺が着けてあげる」
「――は?」
箱の中から未開封の四角い袋を取り出して、目を細めて囁いた。
了承を得る前に、犬塚さんのスウェットと下着を脱がしにかかる。
しゅう、なんて制止の声が聞こえてきて視線を上げると、犬塚さんの頬が赤くなってる。エロい顔。
「初めてだから、うまくいかなかったらごめんね」
そう前置きをして、ゴムの袋を歯で噛み千切った。
中から取り出して、口に咥えて前歯で挟む。うえ、ゴムのにおい。
犬塚さんのモノは既に高くそそり立っていて、恥ずかしいけど有り難い。それを根元まで指先で撫でてから、両手でそっと持ち上げた。
「秋、」
「ん、」
いーから俺に任せて。
そんな目線を、下から送る。
ごくり、喉が鳴ってるのが見えた。
それに煽られて、咥えたゴムを、犬塚さんのに被せる。そのまんま、先端から根元まで、口の中に迎え入れることになった。独特のねばりとにおいは好きになれないけれど、俺と犬塚さんのためだと思えば全然気にならない。
――犬塚さんのはもしかしたら、規格外サイズかも。
俺が使ってたのはきつそうで、結局根元までは届かなかったから。
舌で裏筋を舐め上げて、唾液でたっぷり全体を濡らした後に、ゆっくりと口を離す。ついでに指を使って微調整して、顔を上げると、犬塚さんが、「は、」と呼吸をした。エロい。
不意に犬塚さんが、正面から抱き締めてきて、そのままベッドの上に押し倒された。
「――煽りすぎ」
「うえ、」
「覚悟しろよ」
舌なめずりをして俺を見下ろす犬塚さんの顔は、今までで一番、男の顔をしていた。
――悔しいけれど、超カッコイイ。
覆い被さってきた犬塚さんは、俺に何度もキスをした。触れるだけの柔いキスに、顔を上げて俺も応える。
「秋、」
「ん、いぬづかさ、……あのさ」
「うん?」
「処女みたいなおねだりしていい?」
みたいな、っていうか、実際処女なわけです。
規格外サイズをあそこに入れるっつーのが、正直すごく怖い。
前回は直前で逃げ出したわけだけど、今だって恐怖心は変わってない。
でも、――犬塚さんを受け入れたい。
その気持ちに、嘘はない。
犬塚さんは一度瞬いて、いつもみたいに優しく笑った。
「どうぞ」
「手、繋いでていいですか」
俺が緊張しながら言ったのに、犬塚さんは、ふは、とそれはもういつもみたいに噴き出した。
そしていつもみたいに頭をよしよしと撫でて、頬にちゅーまでしてくれた。
「仰せのままに」
繋いだ手を引き寄せて、手の甲に口付けるサービスまで完璧だ。
絶対この人、モテるよなあ……。
しみじみしながら、指先を絡めて握り返す。
いつもみたいなやり取りに、緊張していた心が解れていった。
――あ、当たってる。
濡れたゴム越し、十分柔くなった俺のそこに、犬塚さんのものの先端が触れる。つい、身体が強張って、犬塚さんの手を握る指に力を込めた。
「大丈夫だよ」
「う、」
「秋、好き」
「うん、」
囁く声は優しくて、犬塚さんは顔を寄せて額へ口付けてくる。唇が滑って、頬、鼻先、唇と、擽るみたいに何度も触れてくる。擽ったさに肩が震えて力が抜けてきたとき、ぐ、と、先端が押し込まれた。
「!」
犬塚さんの片手が、俺の足を開く。ゆっくり、ゆっくりと、押し入ってくるのは、指とは比べものにならない質量のもの。幾ら慣らし広げたといったって、もう、半端ない。
「秋、大丈夫か、」
「ッん、だ、い、じょうぶ、」
うそ。
痛い、滅茶苦茶痛い。
ぎち、って音がするくらい埋まってるし。
それを、俺の様子を見ながらゆっくりと動かしてくれる犬塚さんは、どこまでも優しい。――自分だって、余裕ない筈なのに。
「っは、ぁ、……っふ、」
「ん、うん、上手」
息を吐いて、吸って、って、繰り返すのはきっと本能だ。
緩んだ隙をついて、ず、と犬塚さんのが押し入ってくる。馴染むのを待っては、少しずつ進んで、その間俺は、異物感と圧迫感に、堪えるしかない。
「――ッ、あ!」
――筈、だったのに。
犬塚さんの先端が、さっき散々いじめられた一点に触れてきた途端、びくりと大きく身体が跳ねる。犬塚さんは驚いた後、口角を持ち上げて、其処をわざと突いてきた。
「っう、そ、……っふぁ、んっ、」
「ここ、イイか?」
「んっ、……ッン! ぁ、っは、」
身体を揺すられ、何度も其処を突かれると、萎え掛けていた俺のものも、段々と上向いてくる。
犬塚さんの腹に触れるくらいになると、犬塚さんが目を細めた。
「よかった、」
このまんま萎えてたらどうしようって、思ってたのかも。
犬塚さんが安堵したように言うのを聞いて、俺の胸の中がきゅうっとなる。
ああ、俺。
「ぃぬづかさ、すき、」
「ん、」
「だいすき、すげーすき、」
「うん、わかった、わかったから、」
「せかいでいちばんすき、」
「~~~~っ、」
――あ、大きくなった。
って思った直後、目許を赤くした犬塚さんに、唇を塞がれる。
口の中を襲う激しいキスに気を取られている間、緩く抜き差しが繰り返される。ぐちゅり、ナカに塗り込まれた俺の精液が、濡れた音を立てる。
抜かれたと思えば、的確に俺の弱い部分を突いてこられて、その度に俺は犬塚さんのを締め付ける。
「んっ、ぅう、っふ、あ、」
「っは、……秋、」
口付けが解放される頃には、頭も身体もふわふわだ。
犬塚さんが熱っぽく名前を呼ぶのにすらぞわりとする。
犬塚さんは俺の首筋に唇を落として、柔い皮膚を甘く吸ってくる。あ、痕がつくやつ。それを何度も、位置をずらしてやってくる。マーキングさてるみたいで、不思議と、悪い気はしない。
「ッ、ん! ぁ、」
それも、首とか鎖骨とかの話。
どんどん下に下りてきて、乳首の周りまで吸い付くのは勘弁してほしい。
色んな刺激で既に硬くなっている其処を、犬塚さんの舌が舐める。ぬるりとした感触を過敏に感じたと思ったら、前歯で甘く噛まれる柔い痛みに、胸の先がじんじんし出して、自然と胸を突き出す形になった。
「っ、や、そこばっか、」
「ん、……おいしいよ」
「やだ、ぁ、……ッン!」
がり、って軽く噛まれた。
痛いはずなのに、確実に快感をもたらして、犬塚さんのを締め付ける。
犬塚さんは辛そうな顔をして、空いた片手で、既に先走りをとろとろ溢れさせてる俺のに触れてきた。
「んっ、……ぁ、やば、い、って」
「秋、気持ちいい?」
「っふぁ、……わ、かってるくせに、」
顔を上げた犬塚さんが、わざと俺の耳元で囁いてくる。
恥ずかしい、けど、気持ちいい。
ぬるぬると先走りが止め処なく溢れるそこを、五指で握られて、擦り上げられる直接的な快感と。
身体が緩んだ瞬間、奥を突かれる間接的な快感に、全身が蕩けていく。
もう、何にも考えられなくなりそう。
「ぃ、ぬづかさ、いぬづかさ、んっ」
「うん、秋、……」
「っふ、ぁ、も、むり、ぁ、」
「いいよ、」
「ンっ、ん、いく、いっちゃ、……ぁ、あ!」
ぐちゅぐちゅと濡れた音が響き渡り、更に弱い先端を引っかかれて、耳の縁まで甘く噛まれたら、無理だった。
全身が跳ねて、先端から、白い白濁を吐き出す。
犬塚さんがその瞬間に、一際奥まで突き上げてきて、――ゴム越しに、じわりと温かい感触がする。
「っは、あ、は、」
そしてお互い荒い呼吸をし、犬塚さんが、覆い被さってきた。
汗で額に張り付く俺の前髪を撫で上げて、露わになった額に口付けてくる。
「あー……」
「や、やっちゃったね」
「うん、あのな、」
「う、うん?」
ど、どうしよう。
何かダメだったかな。
ダメだしされますか俺。
恐る恐ると犬塚さんを見上げると、犬塚さんは、笑った。
「幸せだよ、……ありがとな」
掠れた声で囁いて、俺の唇に口付ける仕草は優しい。
俺も、角度を変えてキスを返した。
「あのね、」
「うん?」
――思ったよりきもちかったし、すげーしあわせ。
内緒話みたいに囁いたら、繋がったままの犬塚さんのがむくりと大きくなって、――いやいや嘘でしょ。初めてで二回戦って、マジ、無理、無理だってば。無理でしょ。無理だよね!?
ってな、俺の制止の声が届いたかどうかは、ご想像にお任せするとしよう。
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