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神さま3

「ああ、それと、あの黎とかいう者が入れない理由なら……資格がないからだ。 この場所、つまり神域に入るには、それ相応の霊力か印が必要だからな」  すっと元の無表情に戻った朽葉が言う。 「印……ですか?」 「お前の足の付け根にあるだろう、あれが神に選ばれたという証だ。 それがない人間が神域に入ると魂と身体が分離して肉体は消滅し、魂だけになる。 神域に居すぎるとその魂も生物のものではなくなってしまう」 「……そんな」  冬雪は自分の両手を見つめ、握っては開くを繰り返す。感覚は確かにあるし、どこもおかしなところはない。朝顔の痣が冬雪の印だと知っていても不安になる。 「お前の印は言うなれば保護膜だ。 お前の魂と肉体を霊力の膜で覆い、この神域に満ちている神力が干渉できないようにしている。 神力は本来神しか持てぬもの故、触れればそれは生物でも神でもないものになってしまう」  生物でも神でもないもの、そう聞いてぞっとする。足の付け根の印、これがなければ今頃冬雪も生物ではなくなっていたのかと思うと、恐ろしくてたまらない。  一体それがどんなものかは分からないけれど、わからないからこその恐ろしさがある。 「朽葉様、湯をお持ちいたしました」  襖越しに幼い声が聞こえる。 「ああ、入れ」  朽葉の許しを得て、ゆっくりと襖が開けられる。そこには黒い髪をした十歳くらいの男の子がいた。  大きな黒い瞳がきらきらと輝いている。そして、この子にも狐のような耳と少し細めの黒い尾が一本生えている。 「ここでは自由に過ごしていい。 身の回りのことは全てこいつが面倒をみてくれる」  朽葉はそれだけ言うとすっと立ち上がって部屋から出て行ってしまう。  その後ろ姿をみて、座っていたときも大きいと思っていたが、立ち上がるとより逞しい体格をしていたのだと気付いた。

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