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さよなら僕の村2

「黎、なんで……なんで、ここにいるの?」  十中八九、冬雪が生贄になることが理由なのだろうが、予想外のことに冬雪はそう問うことしかできなかった。 「お前を迎えに来た。 頑固な村の奴らにも生贄なんてくだらない風習にもうんざりだ。 村には戻れないだろうが、俺と一緒に逃げよう」  夕陽が沈み黎の黒い髪がより一層黒くなる。 「……無理だよ」  冬雪は視線を落とす。歩き続けた足は泥や草の汁で汚れてしまっている。 「黎、きみは次の村長なんだから村に帰らなきゃ……。 それに、僕は生まれたときから生贄として扱われてきたんだから、もう覚悟はできてるよ」  本当は覚悟なんてできていないけれど、黎が村に戻ってくれるようにと嘘をつく。  黎は幼い頃から優しくて、誰よりも正義感が強い。だから生贄という誰か一人が犠牲になるようなことは見過ごせないのだ。  そんな黎だからこそ、冬雪はその手を取ることができない。黎は能力的にも優れ、人望も厚く、正義感も強い。これからの黒曜村の村長に相応しい人だ。 「そんなのおかしいだろ。 本当にいるかもわからない神のために一人犠牲にするなんて馬鹿げてる。 それにお前に冷たく当たってきた村のために自分を簡単に差し出すな」  黎はじっと睨むように冬雪を見つめる。思い通りにならないとき、黎はいつもこうして不満を伝えてくる。  黎は同年代の中では比較的大人びている方だが、ふとした瞬間に幼さが垣間見える。

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