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さよなら僕の村3

「ごめんね、黎……こればっかりは譲れない」  冬雪は苦笑しながらそう答える。  確かに村では仲間はずれにされていたけれど、それでも冬雪が育った村だ。祖父と過ごした小さな家も、ささやかな村の催事も、小さい大切がいくつもある。 「おじいちゃんがいつも誰かのためになることをしなさいって言ってたんだ。 馬鹿にされても、人を憎んだりしたら自分も他の人も悲しくなるからって。 だから僕は僕のためにも村のためにも生贄になるよ」  祖父の優しい声を思い出す。きっと生贄になったら祖父に会うことができる。生贄になるのは怖いけれど、そう思えば少しは気持ちも楽になる。 「……嫌だ、俺だって譲れない」  暗闇でも黎が冬雪の方に歩み寄ってくるのがわかる。少し怒ったような強い歩調。  思わず冬雪が一歩後退りすると、背後から強く腕を引かれた。 「え……っ」  大きく力強い手は黎のものではない。  あたりが急に明るくなってて、視界いっぱいに映る金色は星にも似た眩しさと稲穂のようなしなやかさがある。 「私の人だ。 奪わないでくれ」  空気を震わせるような低く澄んだ声に、視界の隅に映った黎が息をのんだ。  今、冬雪は誰よりも優しい腕の中に抱き竦められていた。温かく穏やかで、それでいて絶対に離すまいと込められた力。  顔を見ようと視線上げてもその姿は眩しくて見ることができない。 「夜道は危ないだろう。 私の社に入れるわけにはいかないが、知り合いのところに送ってやる」  綺麗な声が告げると、黎の姿が光となって消えていく。  普段の冬雪だったら焦っていたかもしれないが、焦りはなくむしろ穏やかな気持ちだ。  それどころかなぜだか今は眠くて仕方がない。きっとこれから自分は死ぬのだろう。神様は優しいから穏やかな気持ちで最期を迎えさせてくれようとしているのだろう。  大きくて優しい手が冬雪の頭を撫でる。その手は温かくて冬雪の意識は次第に金色にのまれていく。  意識を手放す寸前に額をかすめた指先だけがなぜだか異様に冷たかった。  

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