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1-2 人生最悪な日はある日突然地雷のようにやってくる

 男は大きく息を吐くと、途端に空気を変えた。  蕩けきったキラキラの目は鋭さと暗さを見せ、口元には張り付いたような薄い笑みを浮かべる。顔立ちは悪くない、端正過ぎる顔が余計に冷たさを演出している。 「ジェームベルト第二国軍所属、ランセル・ビー・ジェローフィスと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」  キツネとは、こういう男の事を言うのだろう。危険だと、本能が警戒を発している。  俺のこうした勘が外れた事はない。だが、勘があろうが逃げられない事もある。俺はこいつの危険性を感じながら、同時に逃げられない事も察している様に思えた。 「まずは砦を案内する。今夜は歓迎の宴を用意しよう。詳しい話は明日にしたいのだが、構わないだろうか」 「えぇ、お願いいたします。まずは皆を休ませたいのですが、よろしいでしょうか?」 「あぁ、そうしてくれ。おい!」 「はい!」 「頼む」 「畏まりました」  俺の補佐をしてくれている隊員に声をかけると、それだけで心得て動いてくれる。逗留する人数も日付も事前に聞いていたから、その分の部屋を用意する事は可能だった。 「ランセル殿とハリス殿はどうぞこのまま。案内しよう」 「はい、お願いします」  さっきまでの様子が嘘のように、ランセルと名乗ったイカレた竜人は俺の後ろからついてくる。  まったく、訳の分からない男だ。俺はやっぱりからかわれただけだろうか。それならそれでいい。掘り下げる気はさらっさらない。  一通り必要そうな場所を案内し、執務室へと最後に通した。詳しくは明日にするが、ある程度の現状を話しておく必要があると判断した。  だが、なぜだ? どうしてコイツはまた俺の手を握っている。どうしてまたこうなったんだ。 「ランセル殿…」 「あの、つかぬ事をお伺いしますが」 「…なんでしょう?」 「結婚されていますか!」 「………あ?」  ダメだ、化けの皮が剥がれる。思わず殺意のままに睨み付けてしまった。  どうする、ハリスという青年は引きつった顔で固まったぞ。そしてどうして俺の手を握っているこの変態野郎が未だに恍惚として俺の手を握ってる! 「あっ、そちらが素ですね。ふふっ、それも素敵です。あの、それでご結婚は?」 「…していない」 「では恋人は」 「いない! 何なんだお前は!」  思わず握られた手を振り払って入念に拭いてやった。一応客人であるのだからと下手に出ていれば調子にのりやがって。いい加減にしろ。本当に焼き切るぞトカゲ!  だが変態。俺のこの態度でも全く動じていない。しかも微妙に体をクネクネさせている。頭おかしいな、こいつ。 「では、私と子作り前提でお付き合いを…」 「寝ぼけた事言ってないで仕事の話をしろ。それと、俺はお前みたいな変態は願い下げだ。これ以上言うなら焼くぞトカゲ」  俺は狐族では珍しく炎を最大限に使える。青く揺らめく狐火を自在に操れる者はそうはいない。トカゲ一匹丸焼きにするくらいの火力はあるだろう。

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