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1-3 人生最悪な日はある日突然地雷のようにやってくる
だがランセルは簡単に表情を変える。またあの、仮面みたいな薄い笑みだ。この代わり身の速さには、どうもついていかない。
「失礼しました。そうですね、まずはそちらを片付けましょうか」
「あぁ、それで頼む」
正直信用はできない。だが、この顔をしたコイツはおそらく使える。さっさと終わらせて離れるのが一番だ。俺は改めてソファーに座り直し、隊長の顔を作った。
「事が起こりだしたのは二ヶ月程前、霊薬を栽培する村の一つが襲われた。調査と聞き取りを行った結果、獣人と竜人が共謀しての犯行だと分かった」
俺の報告に、ランセルもハリスも表情を引き締める。
いや、微妙に違うな。ハリスは真剣な顔になったが、ランセルはあの薄い笑みを浮かべたままだ。
この辺の国境付近には村が点在している。それというのもこの深い森の中でなければ、霊薬が育たないからだ。
獣人の国は天人の国の次に薬草が多い。特に効果の高いものは『霊薬』と呼ばれ高値で取引される。
この辺で取れるのは特に胸の病に効く。国の大事な財源であり、待つ患者にとっては命の薬だ。
「初回の被害は小規模だったが、近隣の村でも起こり始めている。どれもこちらの警戒網をかいくぐっている。森の中を捜索しても拠点が見つけられない。いい加減捕まえなければ被害が大きくなる」
こういうことは初めてではないが、こうも組織的にやられるのは初めてだ。
警戒して人を派遣するも限度がある。第四、第二砦にも応援を要請しているが、奴らは協力的ではない。手間のかかる割に利益の少ない事案はお気に召さないのだろう。反吐が出る。
このままでは本当に霊薬が根こそぎやられる。そうなれば国家の利益にも関わる。
声を大きく訴えてようやく、隣国ジェームベルトとの合同作戦となった。相手が竜人族となり、臆したのだ。
「まったく、困ったものですね」
とても静かに、ランセルは言う。その声の底冷えのするような声音に、俺は奴を見た。
そして後悔する。この男はその心にどれほどの闇を持っているのか。薄い笑みのまま、瞳だけは冷え切った暗い光を宿している。こういう男だ、平気で他者を殺し尽くせるのは。
「事態がここまで深刻とは思っていませんでした。明日と言わず、何かあれば今日からでも手を貸しましょう。この国の霊薬は竜人の国でも貴重な薬。なくなってしまったり、値が上がっただけでも苦しむ民がいるのです」
「…あぁ、頼みたい」
とても静かな冷気を纏う。この男、分からない。だが、今は味方だ…多分。
俺は頷き、改めて手を差し伸べる。今度は確かに握手をして、ランセルとハリスは割り当てた部屋へとそれぞれ入っていった。
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