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2-1 頭のおかしい事と有能さはまた別の話

 翌日、ひどく体が重く気持ちが悪いまま目が覚めた。  原因は分かっている、昨日の事件だ。似合わない魔法に力を使いすぎた事。そして、他人の…しかも竜人の血を取り込んで悪酔いしたんだ。 「っ…」  上半身を起こすと僅かに頭が痛みフラリとする。鈍い頭を手で押さえ、サイドボードの水差しの水を飲み込めば少しはましになった。  起き上がり、普段よりも熱めのシャワーを浴びれば意識も気持ちもしっかりとしてくる。綺麗に拭き上げ、髪と尾の水を魔法で乾かせばそれでお終いだ。  ゾルアーズ軍の制服は黒。黒のストレートなズボンに白いシャツ、それに国章の入った赤いネクタイを締め、尻が隠れるくらいの長さの上着を羽織る。一般の兵はここまできっちりとはしていないのだが、一応は上官としての形もある。堅苦しくて肩が凝るが。  部屋を出て、食堂へ。いつもより賑やかなそこは軽く戦場のようだ。 「あ! 隊長おはようございます!」 「あぁ」  元気が取り柄の部下達が軽い感じで挨拶をしてくる。それに俺も応じた。  任務などでは厳しいが、常にそれを強いることは好まない。メシの時間くらいどうでもいいだろう。だから、始業の鐘が鳴る前と終業の鐘が鳴った後は無礼講としている。  他の隊に言わせれば、俺は甘いんだろう。 「おはようございます、グラース隊長」  知った声に視線を向ける。奴はなんとも優雅なものだ。  ジェームベルト軍の制服は新緑色だ。形ももう少し儀礼的で優美。羽織る上着は深い緑に金糸の刺繍がされている、詰め襟に金ボタンのものだ。 「座りませんか?」 「…」  言いたい事は色々ある。コイツの顔を見た途端に吹き上がる不満というものが昨日から抑えられない。  だが、部下もいる場で他国の責任者を引きずり下ろすような事は言わない。溜息をつき座ると、なぜか横合いからパンやらスープやらが置かれた。 「おはようございます、グラース隊長!」 「あぁ、君か」  ハリスが朝から明るい笑みを浮かべて、あれこれ上官の為に食事を運んでいる。どんどん並ぶその量に、思わず目が丸くなる思いだ。 「…おい、これ本当に食べられるのか?」  基本的にうちの隊では残すのは厳禁だ。自分の体調を考慮して、食べられる分だけをよそって食べる。これがルールで徹底されている。  俺自身、残す事は好きじゃない。無駄だし、何よりも作った奴に失礼だ。  だが目の前のランセルは実に穏やかな様子で笑う。 「朝なので軽めですよ」 「……」  朝から頭痛がした。  俺はなぜかランセルとハリスの二人を目の前に朝食を食べる事になった。そして、その量に呆気にとられている。  確かに竜人族は食べると聞く。どんなに細くてもかなりの量を食べるのだと。  俺だって食が細いわけじゃない。この体を維持しているんだ、三食欠かす事はしないしバランスよく食べている。だが、こいつらの比じゃない。  山盛り10個以上はあっただろうパンは見る間になくなり、同じく山盛りの肉とサラダもあっという間に消えた。  それでも足りないのか、ハリスが果物を皿一杯に持ってきた時には開いた口が塞がらなかった。何がどうって、これを全部こいつら二人で食べたのだ。  俺も多少はもらった。いつもと同じくらいの量だったはずだ。だがこいつらを目の前にすると、俺は小食だったのかと疑問に思えてしまった。 「美味しいっすね、ここの料理!」 「えぇ、そうですね。朝からちゃんと力がつきます」 「腹八分で止めるの辛いっす! 欲を言えばもう少し食べたいっす」  …もう、何も言うまい。

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