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2-2 頭がおかしい事と有能さはまた別の話
なんにしても朝からこいつらを捕まえておけたのはその後の仕事にもよかった。この流れで執務室に行き、俺の補佐をメインでしてくれるハルバードとも合流した。
ハルバードは黒ヒョウの獣人だ。肌はやや褐色で黒髪、耳はあまり大きくない丸いものだ。俺がこの砦に来た頃に補佐についてもらったから、もう3年か。
「昨日は他に行っていて不在だったから、紹介する。俺の補佐でハルバードだ」
「昨夜は失礼をいたしました。グラース隊長の補佐でハルバードと申します」
丁寧に頭を下げたハルバードに、明るいハリスは直ぐに「よろしくお願いします」と自己紹介をする。
だが、そばの男は貼り付けたような笑みを崩さぬままに鷹揚に頷き、たった一言「ランセルです」とだけ伝えた。
何かを警戒しているようだ。冷静に考えると、この男はあまり他人と関わらないように思う。当然立場があるから取り繕うし、それなりの対応はしている。だが、素っ気ないものだ。
俺だけだな、うちのメンバーでこんな顔をしないのは。
思って、思った事を後悔して、俺はまた軽い頭痛を感じて頭を振った。
何にしても仕事をする。昨日の事件も含め、ハルバードが事を報告している。
「この砦の周辺には、小規模な村が10ほどあります。どれもが霊薬に関わる村で、栽培や加工、保管などを行っています。最初の2件は栽培を行っている村が襲われました」
ボードに貼り付けた周辺地図に赤い丸がつく。被害にあった村だ。
「ですが、次に襲ってきたのは収穫された霊薬の原料を加工する村です。事件は1件です」
青い丸がつく。この時は加工途中だった霊薬が盗まれた。必要な道具も壊れ、村の者は酷く泣いていたのを覚えている。
「最近では、完成した霊薬を一時保管している村が襲われています。昨夜の事件を含めると、4件目です」
黒い丸が4つ書き込まれる。それを、苦々しい思いで見た。
霊薬の栽培や加工については国のトップシークレットだ。一般人はおろか、こんなに近くにいる軍人でも生成方法を知らない。
おそらく夜盗達は薬の原料を手に入れて売ろうと考えたのだろう。だが、そんなもの売れるか。効果の高い薬は正しく作らなければただの草だ。
それが分かって、今度は加工している村を襲った。だが、それだって間違いだ。途中の物を持っていっても完成していないんじゃ意味がない。
ただ、保管の村は守りも厳重だ。保管庫の守りは鍵と鍵守が開けなければ開かない。例えこの鍵守が死んでも開かないのだ。
その場合、国からお偉い人がきて開ける事になり、その時に鍵や結界も新しく張り直される。
既に2回、そのお偉いさんの渋面を見ている。
「奴らは薬を手に入れられていません。昨夜も失敗しているなら、また近々来るでしょう」
ハルバードの見解はその通りだと思える。奴らは結局金になる物は手にできていない。そして数人を殺している。許されない罪人だ。
トントンと指が膝を打つ。隣に座っていたランセルが、やんわりとその手を止めた。
「状況は理解できました。昨夜、逃亡直後と思われる犯人をグラース隊長と私で追いましたが、途中で痕跡を見失いました。それを含め、今日中に村と周辺の調査を行いましょう。よろしいでしょうか、グラース隊長」
「あぁ、そうしよう。俺は森の中をもう一度見てくる。ハルバード、砦を任せる」
「畏まりました」
「それではハリスもハルバードさんの手伝いと、うちの隊の指示連絡をしてください」
「了解っす!」
ニンマリと笑ったハリスはいい。だが、そうなるとこの男はどうするという。
俺はランセルを見た。目が合った途端、穏やかに微笑まれた。無言で「ついていく」と言っているようだ。
脱力するしかない。普段あまり動かない耳が、この日ばかりは折れていただろう。
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