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2-4 頭がおかしい事と有能さはまた別の話
その夜、俺はランセルと共に共同作戦を行う事を伝えた。
これには補佐をしているハルバードも、ランセルの補佐官のハリスも驚いていた。そう、これは俺とランセルだけで決めた事だった。
「これ以上の被害は出せない。ジェームベルト軍と連隊を取っている間に事を進める。明後日、全軍で動く」
「全軍ですか!」
流石に騒がしい。まぁ、そうだろう。砦を空けて各村の警備とその周辺の森を全面捜索するのだから。こんな無茶、今までやった事はない。
「流石に危険ではありませんか?」
ハルバードがそう伝えてくる。俺はそれに、静かに頷いた。
「確かに危険だが、これ以上の被害は出せない」
「ですが…」
「以前の人数では村を守るのが精々だったが、今はランセル隊長の軍もいる。村を守りつつ森狩りを行えば奴らを取り押さえる可能性はある」
「ですが…」
なおも食い下がるハルバードは、だがそれ以上は言わなかった。
「ランセル隊は明日の午後から、俺の隊は明後日の正午から配置につく。決行は夜。卑劣な盗賊共を根絶やしにする」
俺の声に、皆は黙って礼をした。
翌朝からは忙しく人が動いた。その騒々しさを、俺は執務室で聞いている。側ではハルバードが、いつもと同じように働いてくれていた。
「なぜ、あのような無謀な策をお取りになったのですか?」
静かな声に、俺は応えなかった。
「貴方らしくありませんが」
「そうでもない」
事件の解決が後手に回っているのも気にくわない。そして、あいつの言葉を肯定せざるを得なかったことにも腹が立つ。静かに心が燃え上がった。
森をランセルと共に調べた直後、俺は私室にあいつを招いた。執務室を使えば他の奴もいる。知られたくなかったから、仕方なくだ。
「これが貴方の部屋なのですね!」
キラキラした目で辺りを見回すあの男を、ここでなら始末できるのではと悩んだ瞬間だった。
俺は机の上に出しっぱなしになっている書類を全て、ソファー前のローテーブルに広げる。側には地図も置いた。作戦立案などにつかう、やたらと空白の多い地図だ。
「事件の調書と、こちらの動きを見比べましょう」
そう言ったランセルと共に、俺達は事件が起こった順番に書類を分け、地図に書き出した。
「まず、最初の事件は抜かしてもいいですね。おそらくなんら計画はありません。場所は国境の森に一番近い村。金目的で襲ったけれど、当てが外れた」
「事件が起こり、村が襲われた一時間後、俺の砦から人が動いた。その時には犯人は逃げた後。村人の話で犯人が6人だと分かった」
これらを地図に書き込む。村の場所に印を付け、線を引いて空白部分にこれらを書き込む。
「次の事件もまだ、計画性が乏しいです。最初に襲った村から反対側。最初の犯行から一週間後ですか」
「こちらも事件後一時間で俺の砦から人が出ている。顛末は同じだ」
「どうして第三砦なのですか? 最初の事件では第二砦が、次の事件では第四砦のほうが近いですよね? 明らかに第三が出ていくのは場違いではありませんか?」
「ほぉ、ごもっともな指摘をするな」
俺の腹立たしい部分をコイツは実によく分かっている。俺の皮肉たっぷりの笑みは深くなるばかりだ。
「奴らはこんな場所で、村人なんて守る為にいるんじゃないそうだ。頭の中はどうやって上へ取り入るか。名も知らん一般人、しかも見返りも期待できないような貧乏人の言う事なんざ取り合うだけ時間の無駄だ」
「おや、どこの世界にもクズはいるものです」
「ほぉ、初めて共感できるな」
言えばランセルも悪い笑みを浮かべる。俺も同じような笑みを浮かべた。
「住んでる奴も、クズに頼るほどバカじゃない。普段から親身に話を聞いて動くうちの隊に真っ直ぐ助けを求めた方がスムーズかつ早いというのを知っている。それがまた、周囲の砦からすると気に入らんのさ」
「なんとも面倒な世界ですね、軍というのは。嫌になりませんか?」
「嫌になりましたでばっくれていい話じゃないだろ。一応の責務ってものがある。国の畜生が嫌だから止めますって? 無責任もいい所だ」
辟易する。反吐が出る。どいつもこいつも『殺ってよし』と言うなら躊躇いなどない。そのくらいには腹が立つ。
ランセルはなぜか、俺の頭に手を伸ばして、ガキにするように頭を撫でた。驚いて、次には妙な苛立ちがある。この年でガキ扱いなどご免だ。
「おい、トカゲ」
「あら、怒っちゃ嫌ですよ。慰めたいんです、痛そうな顔をしていたので」
「いらん」
「ふふっ、素直じゃないんですから」
俺はコイツが嫌いだ。
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