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2-6 頭がおかしい事と有能さはまた別の話

 痕跡を追えなくなった場所は、とある場所から四キロ圏内。全てがその円の中に入っている。また、襲われた村も皆その中だ。 「古い転移装置が安定的に使える最大移動距離は八キロ。本体をどこかに固定し、端末を移動先に隠して設置し、そこから盗賊共が現れている。盗賊の1人が端末を持ったまま村を襲い、軍本体が村に到着する直前に逃亡。森の中で端末を発動させて本体に帰還。これを繰り返していたのですね」  そう考えるのがあまりに自然だ。  最大移動距離が八キロだとしても、旧式はガタがきている。奴らが四キロ圏内で使っているのは、おそらく八キロも飛ばすと装置が不安定になるからだろう。 「そして、全ての追跡不可能ポイントの中央は、やはりここですか」  そこは、この第三砦周辺だった。 「怪しい場所はありますか?」 「いくつかある。この砦は俺が赴任する1年前に出来たものだ。ここから目と鼻の先に旧砦がある。崩れる危険もあり、鍵をかけているはずだが」  だが、そこしかない。旧式の転移装置は使えないようにしたと報告にあるが、当時の上官が確認したかは疑わしい。  随分と怠惰な男だった。出世コースから外れ、気力もなくし日々を事なかれで見て見ぬふりだ。しかもその地位も俺のような若造に追われたのだ。面白くなかっただろう。 「古い資料を今日中に引っ張り出す。当時の事が分かれば、今回の事に辿り着く」 「分かりました。明日の早朝、お伺いしますよ」 「お前は明日、自分の隊を連れて森の国境ギリギリまで動くな」 「はい、作戦通りです」  にっこりと微笑み、指をジェームベルトとゾルアーズの国境ギリギリの所に移動させる。明後日決行の作戦前に、隊を移動させて国境線を固める。  隊にこの情報を大々的に流せば、奴らもやりづらくなる。賢いなら、明日に動いてそのままとんずらするのが一番だ。  国境は奴らの行動範囲四キロから遙か外。怖いジェームベルト軍が不在となり、人数が減ったグラースの隊だけになる明日が勝負だ。  そしてこれは誰にも、例えハルバードにも話さない。ランセルもハリスに言わない。これは2人だけの話だ。 「それにしても、初めての共同作業ですね」 「……は?」  不意に手をサワサワと触られて鳥肌が立つ。うっとりと、かつ体をクネクネさせながら赤くなるランセルは、実に気持ちが悪い。思わず手を引き体も離した。 「あぁ、そんな殺生な」 「キモい! そして何が共同作業だ。歴とした共闘作戦だろうが」 「だって、2人だけの秘密なんですよ? 2人だけの秘密会議なんですよ? こんなの…ふふっ、興奮する」  暗い瞳でひたすら「ふふふふっ」というコイツを、キモいと思ってはいけないか? 確かに頭は切れるが間違いなくイカレている。背筋に走る悪寒が止まらない。 「おや、尻尾が膨れていますね。それは、どのような感情なのですか?」 「威嚇だボケ!!」  まったく、とんでもない者に好かれた。これは俺の受難か? こんなの背負わされるほど俺は不幸な生まれなのか。  思わぬ受難。だが、仕事としては共にやれる。そんな不思議な関係が、コイツとの間にはある。重く溜息をつき、俺はひたすら「あと少しだ」と言い聞かせた。

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