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4-2 しがみついていた物がゴミ屑だと知った日
その夜、俺はテラスにいた。もう、色んな事が面倒になっていた。
ハルディーンは本部に護送されることになった。犯人達も一緒だ。
あいつが直接殺したわけじゃなくても、唆して転移装置を作動し、事件を起こしたことに変わりはない。あいつも、あいつの兄ももう先はないだろう。
俺も、本部から招集がかかった。今回の責任を問うのだろう。俺を目障りに思っていた奴らが、ようやく俺を蹴落とす口実を得て嬉々としている様を思い浮かべる。
「…面倒くさい」
「ならばいっそ、憂さ晴らしして逃亡すればいいのに」
声に、俺は特に驚かなかった。コイツは足音も気配も殺していないのだから。
「やれるならやっている」
「簡単でしょ?」
「…お前、職務や責任という言葉を知っているか?」
「鼻かんで屑籠に捨ててとっくに焼却済みです」
そう、なんとも清々しい顔でいいやがった。
だが俺は、コイツのそういう部分を羨ましいと思っている。清々しいほどのクズなのに、俺にはない覚悟と自由を持っている。
それに比べ、俺はなんだ? 職責に縛られて、動けなくなって、今もまだしがみついている。
「俺は、みっともないか?」
「格好いいと思いますけれど」
「そう、見えるのか?」
問えば首を傾げ、曖昧に頷く。絶対、思っていない。
「グラースさん、貴方の生きたい生き方って、どういうものですか?」
「え?」
「私は、好きになった人と暮らして行く事なんです」
俺の眉根が寄る。だが、コイツは少し寂しそうに眉根を寄せて、どこか遠くを見るように視線を空へ投げた。
「誰かにとって何でもないこの願いが、困難な人もいるのです。小さくてもいいから、幸せに愛した人と暮らしたい。毎朝を一緒にして、寝るときは一緒の布団で。そんな日々に、うっとりと夢を見る者もいるのですよ」
まるで「自分がそうだ」という口振りだ。
「そのように生きればいい」
言って、後悔する。まるで泣きそうな顔をしたランセルは、俺を見て文句を言うでも、いつものように誘惑するでもなく、ただただ辛そうに笑った。
「グラースさんは、この先をどうしたいのですか?」
この問いに、俺は答えられない。答えられない事に焦りがある。俺は考えていなかったのだ。軍から弾かれた先の、自分の未来など。
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