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4-3 しがみついていた物がゴミ屑だと知った日

 ゾルアーズ国第二の都市、ハーベル。ここに、軍の総司令部がある。  俺はもう一時間、面白くもない奴らの顔を見続けている。 「部下の犯罪を見逃すとは、なんたる不始末!」  そう、いきり立つライオンは第二砦のくそったれだ。 「総長! これは軍の信頼を著しく失墜させる事態ですぞ!」  机を叩き声高に言う狼は、第四砦のくそったれだ。  どいつもこいつも、軍の上層部というのは部族だなんだと面倒くさい。しかも自分たちの事はなかったことにしている。  こいつらは言うんだろう。軍は我々選ばれた一族のみがいればいい。ぽっと出の狐が偉そうな顔をしてここに並ぶ事は許されないと。 「大体、他国に頼るなどなんて恥知らずな」 「そうです。我が国にはこの程度の輩を抑える力もないと晒した様なものです」  実際そうだろ。俺からの要請を「今は忙しい」とか「それは我らの仕事ではない」とか言って突っぱねたんだろうが。だから要請したんだ。  俺を見る、一際大きな椅子に座る男が静かにそれらを聞いている。気遣わしい目で俺を見て、どうしたものかと思案している。  軍事総長は、俺の事を案じている。それは分かっているが、その気持ちも知っているが、それが俺には重荷なんだとは思っていないだろう。 「大体、グラース殿には砦の責任者など時期尚早だったのだ」  あぁ、本当に煩い。その口黙らせていいなら、簡単だろう。 「彼の出世は異例すぎますからな」  何の努力もしてないような声で言うなクソが。血反吐吐くような思いで過ごしてきたんだ。 「少々特殊な個体であるのは否めませんが、少し特別扱いが過ぎるのではありませんか?」  その特殊な体質がどれほどの地獄か、お前に味合わせてやろうか。  俺は、何をしているんだろうな。俺は何にしがみついているんだろう。こんなに虚しいばかりで、こんなに苛立ちばかりなのに、まだここから離れられないのか。  ――貴方の生きたい生き方って、どういうものですか?  うるせぇ、トカゲ野郎。お前の言葉が耳について離れないんだ。どれだけ考えても、俺の中で答えが出ない。俺の生き方ってなんだ。俺は…そんな事を考えて生きてきていない。 「そもそも、狐族がこの場にいるのが多少滑稽ではありませんか」  いい加減、耳障りだな。 「総長のご友人の息子だからと、少し甘い顔をしているのではありませんか?」  もう、いいか…。 「グラース殿、聞いて!」  ガタン!  音を立てて立ち上がれば、息巻いていた上層部のクソ上司どもが皆一斉に引く。情けない。誰一人、この場で俺を抑えられる奴なんていない。 「そんなに目障りなら、消えてやる」  俺はタイを引き抜いて置いた。軍のエンブレムの入ったそれは、勲章と同じだ。人前で取るということは、軍を抜けると言うのと同じだ。 「グラース隊長!」  大慌てをしたのはさっきまで息巻いていた奴らだ。一族だ、地位だと騒ぎ立てるこいつらも、バカではない。俺が抜ければ戦力としてどれほどの痛手か、それが分からないような奴らじゃない。しかも第三砦は周囲に村がある国境沿いで、何かと懸念される事も多い。  だが、もう疲れた。軍人というものにしがみつく意味を、俺は見いだせなかった。

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