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5-2 ジェームベルト第二国軍宿舎

 なんにしてもイカレたトカゲが出ていった。重苦しい溜息が出るが、現状が分からない以上は動きようもない。  ハリスが軽い食事を持って入ってきたのを良いことに、俺はあいつを座らせた。 「ハリス、ここはどこだ?」 「ジェームベルト第二国軍、通称緑竜軍の宿舎っす」  完全にあいつのテリトリーじゃないか。 「責任者は…」 「さっきの人がそれっす」 「…は?」  言っている意味が分からない。俺は目を丸くしてハリスを見た。なんとも遠く、死んだ目だ。実に言いづらそうなこいつの様子に、俺も嫌な予感がした。 「さっきの…というのは、ランセルの事か」 「そうっす」 「あいつがここの責任者なのか?」 「緑竜軍の総司令って言ってもいいっす」  額に手を当てて落ちてくる髪を抑えて、俺はもう言葉がない。偉そうだとも思ったし、雰囲気も他とは違った。だがまさか…そんな奴がほいほい他国に来てんじゃねぇ! 「ランセル様は緑竜軍の総司令と同時に、この国の王子っす。ここはランセル様の屋敷で、軍の宿舎っす」  頭が痛いを通り越して、お先が真っ暗に思えた。  つまり、ここを出る方法はあいつを説き伏せるしかないということだ。竜じゃないんだ、瞬時に空に逃げる事も国境を越える事もできない。  しかも相手が王子だと? しかも軍を大々的に動かせる立場だと? この国大丈夫か。あのイカレトカゲに全権預けるなんてバカなのか。  俺の思うところが察せられるのか、ハリスは肩を落として「ご愁傷様っす」と言う。その気遣いは正直いらない。 「この軍、大丈夫か」 「そこは平気っす。あの人のこんな姿、これが初めてっすよ」 「ん?」  ハリスがヘラヘラ笑いながら言う。それに、俺は実に疑問だ。この様子では、今まではまともだったようだ。 「グラース様だけっすよ、あの人があんなに崩れるの。だからもう、最近気持ち悪くって! 上司の意外すぎる一面としては衝撃大きすぎて、正直受け止めきれないっす」  つまり、以前はこうではなかったと…。  だがそれも納得はする。仕事の時のあいつは確かに性格は悪いが有能だ。そこは俺も認める。  ハリスはそれでも笑っている。少し楽しそうなのが癪に障るが。 「まぁ、病気みたいなもんっすね」 「俺はどうなる」 「…ご愁傷様っす」 「つまり、諦める事がないんだな」  ここから出なければ。思う反面、出た所でゆく場所がない。現状に不満はあるが、出ていってどこに行くのかと問われるとなんとも言いがたい。気持ちの悪い状態だ。 「グラース様」 「ん?」 「もしも迷惑じゃなければ…」 「あぁ?」 「…迷惑っすよね」 「当然だ」  迷惑は迷惑なんだ。それは間違いがない。  だが、大暴れしてまで拒む相手かと言われると、その限りではない。これでも少しは信頼した相手だ。酒を飲んでいたにしても、誰にも言わない事を吐露するくらいには。

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