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6-2 狂気の夜

 俺の服を乱暴に取り払うランセルは、体中に咲いた花紋に口づける。その度に、俺は走る痛みにも近い快楽に支配されていく。  息が上がる、意識が朦朧とする。前のような遠慮などなく、一気に吸い出すようにされるから余計に質が悪い。 「あぁ、やはり貴方の匂いは興奮します。とても、とても素敵です」  言いながら泣きそうな顔してんじゃねぇ。  取り出した薬を俺に握らせ、その上に手を重ねてキスをする。口腔を蹂躙するその動きに、快楽に火のついた俺は感じてはいる。  でも、そこに気持ちはない。俺は拒絶している、ランセルを…今のこいつを。  当然薬は反応をしなかった。それを見るランセルの、死んでしまいそうな顔色を俺は見上げる。  バカだろ、こいつ。分かっているだろ、この薬はそういうものだ。互いに気持ちがなければ、反応などしない。お前の気持ちが100あったって、俺の気持ちが0なんだ、色がつくわけがないだろ。  なのに、息が出来ないような青い顔をするな。俺が悪いのか。  もしかしたら、昨日の俺なら少しくらい色がついたかもしれない。俺はあの時、お前の事を愛してはいなくても、信頼はしていた。俺の気持ちを分かってくれる、苦しみを聞いてくれる、楽になる言葉をくれる。そんなコイツを俺はどこかで求めたかもしれない。 「いいですよ、もう…」  泣きそうな声で、それでもランセルは俺の体を貪るように味わっている。なおも咲く花を愛で、触れていく。指先が胸の突起を捏ね、摘まみ、抑えられない声に興奮しているその様を、俺は冷めて見ている。  反応しているのは生理的にだった。それを、コイツも分かっているだろう。虚しいと分かりながら、自分を傷つけながら何をしてやがる。痛いならやめろ。何を意地になってやがる。  後ろに、ランセルの指が伸びる。足を開かせ、また魔法で括られた。動きが取れない俺の後ろへと突き立った指は、俺に痛みを与えてくる。 「軍にいて、後ろはまったく緩くなっていない。もしかして、初物ですか?」  答えない俺の態度を、コイツは肯定と取った。真実だが、俺は言わない。  やがて、指を一本受け入れたそこがジワリと熱を持った。それはあまりに熱く、狂うほどに疼き痺れる。 「あっ…はっ、あぁ!」  何かをしている。それは分かる。だが感じた事のない体中の血を加速させるような行為に俺の精神がついていかない。体を作り替えられるような恐怖と拒絶しかないのだ。 「魔力を流して、緩くなるようにしました。受け入れるのは辛いので」  何の気遣いをしてるんだコイツ! この行為自体がレイプなんだ、そんな気遣いいらないだろう!  いっそ、裂けるような痛みを味わったほうがよかった。  俺は分からない。コイツは何がしたいんだ。俺を拉致って愛を囁き、監禁してまで求め、レイプしながら傷つかないようになんて思ってる。  バカすぎるだろ、お前は。お前が今踏みつけているのは、俺の心だ。どうしてそれを分からないんだ。  グズグズに後ろが解れたのが分かった。緑竜は他者の魔力に干渉する力が強いのだと、コイツは何故か説明した。  その説明いらないだろ。言う事は他に五万とあるぞクソッタレ。沈黙に耐えられないんだろうが、その状況にしたのは誰だ。 「そろそろ、大丈夫でしょう」 「うっ、ふっ……くっっっっ!!」  唇を噛んで、俺は挿入の激痛を飲み込んだ。竜人族のそれは太さと長さがある。獣人族もでかいが、長さはそこそこだ。両方となると当然苦痛だ。  奥まで入り込むそれが、ズリズリと内壁を擦り上げ、やがて行き止まりまで到達する。そこを押し込むように突き上げられた瞬間、こみ上げる吐き気に似た感覚に息が止まった。 「かっ、はぁ!」  苦しい。痛みもあるが、苦しい。  それでも、ランセルはなおも腰を突き入れる。俺は壊れたように揺さぶられ、ひたすらに耐えるしかない。腹の中で膨れ上がる強張りを感じて、早く出せと願ってしまう。これを何時間もは耐えられる気がしない。体が壊れる。 「はっ、あっ、はっ」 「いいですね、色っぽい。ふふっ、グラースさん、素敵です」  言いながらキスをするコイツは、多分泣いている。涙こそ流れないまでも、そういう顔だ。  これは俺が悪いのか? 朦朧とする意識の中、最奥へと叩きつけられるようにして埋まったそれが超えるべきではない部分まで埋まり、熱を吐き出していく。俺はそれを、落ちる意識の中で感じた。  なんだ、これは。絶望…というには深すぎる。狂気のコイツを、俺はどうしたらいい。泣き叫んで拒絶したら、コイツはそれに応じるのか。嫌いだと取り乱せば、終われるのか?  否。コイツは子供を求めている。これは、俺がコイツの子供を産まなければ終われない。そして、俺がコイツの子供を万が一にも産めば、コイツは俺と結婚するんだろう。俺の意志など気にもしないで。  詰んだ。俺はその絶望を受け入れるか、拒絶するのか。拒絶するならもう、俺は死ぬしかないんだろう。

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