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10-3 熱に触れて、君を感じる
目が覚める。それは肉の感触と重みを確かに感じる目覚めだ。瞳を開けた俺を、王は驚いた顔で見た。
「貴様!」
「そいつに触るな!!」
怒声と殺意に俺の魔力は体外に滅茶苦茶な形で放出される。青い焔が王の体を包む勢いで襲う。
手を振り上げ、ベッドの周囲に結界を張った。渾身の力で強固なものを作り、俺はランセルの体を引き上げた。
「ランセル!」
反応が薄い頬を叩くと、僅かに指先が動く。傷は、どこなんだ。脱がせて、探って、それを見つけた。
それはとても小さな傷だ。鎖骨の下辺りに、浅く短刀を刺したのだろう傷が見える。だが、たったこれだけなんだ。出血すらも止まっている。なのにそこから大量に魔力が漏れていく。
手の平をあて、精一杯にヒールをかける。俺の力じゃ塞がるのに時間がかかる。でもそれにしても、塞がってくれない。
どうして…。急速に衰弱する体の原因は、流れ出ていく量の多さだ。ならばと、俺は唇を重ねた。
焔の花が咲いては消える。既に全身を覆うように咲くそれを、触れた部分から直接流し込む。暴れ狂うような魔力の全てをこいつに流し、同時に回復をかけている。
頼むから、少しでもその体に熱が戻るように。弱い反応が、少しでも強くなるように。溢れ出るものが、止まってくれるように願いながら。
手に感じる放出が、徐々に弱まっている。吸い上げるように、コイツの体は俺の魔力を食らう。大丈夫、まだコイツは生きられる。俺は失わずに済む。繋ぎ止められる。
傷が塞がり、大量に漏れ出ていた魔力がおさまっていく。それでも俺はコイツの器が満ちるまで止められなかった。怖くてたまらなかったのだ。目が覚めない事が、怖くてたまらなかったからだ。
ようやく唇を離した時、周囲は王と城の兵に取り囲まれていた。
「よくやった、狐。だが、そこまでだ」
「っ!」
ランセルを抱えてここから脱出する事は難しい。俺も大分疲弊してきている。膨れ上がるような魔力の全てを一か八かぶつけてみようか。こけおどしにはなる。コイツを置いて行くことはできないんだ。それなら、やってみるしかないのか。
歯を食いしばり、覚悟を決める。ランセルの体を抱え上げた俺は、だがそこで違う足音を聞いた。
「陛下!」
「何事だ!」
「それが!」
駆け込んできた兵士を踏み越える勢いで、装いの違う男達が雪崩れ込んでくる。
俺はそれに目を丸くした。緑竜達が緑色と白の服なのに対し、入ってきた者達は金色と白の立派な装備を纏っている。そして、手にした剣を王一派へと向けていた。
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