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11-1 赤い印

 それから1ヶ月、俺はひたすら体力を戻す事に専念した。  その間、ランセルには申し訳無いが放置した。あいつは嘆いたが、少し待て。まずはあれこれと準備をしなければいけないんだ。  文句を言われ、「筋肉バカ」とまで言われ…少し殴りつつも堅い誓いは他に出さないまま、密かにハリスに数日の休みを確保できるか頼んだ。少し驚いたハリスだったが、何も聞かずに頷いてくれた。  そうしてようやく、明日から数日ランセルの休みを確保したのである。  その夜、俺はランセルの部屋で待っていた。風呂に行ったあいつを待って、ソファーに座っている。  多少、心臓が煩い。それでも言うと決めたし、強い誓いは挫けていない。そうして待つ時間は多少長かった。だが、入ってきたランセルが俺を見て驚き、その動きを止めたのを見ると少し笑えた。 「グラースさん?」 「こい、ランセル」  おずおずと近づいてくるランセルが、俺の対面に座る。俺は立ち上がり、横に座り直した。近い距離に驚いたランセルは、俺の顔をマジマジとみている。 「あの、グラースさん?」 「端的に言うか、長々と聞きたいか、どっちだ」  多少、ぶっきらぼうになっただろう。焦りと余裕のなさから怒ったようになったのも認める。だが明らかに怯えるな。お前は俺に散々してきて、何を今更怯えるんだ。 「あの…端的に…」  怒られると思っているんだろう怯えた瞳が俺を見ている。毎日俺に怒られそうな事を十以上はしているからな、覚えがありすぎて分からないんだろう。  まったく、バカだな。わざわざこんな時間にお前を待つほどの事はしてないだろ。精々その場で俺に殴られて終わってるんだからな。 「分かった。ランセル、お前の子供産んでやる。その代わり、俺が孕むまでやれ」 「……え?」  目がまん丸に見開かれていく。俺はさっさと立ち上がってベッドへ向かおうとした。大事な部分は伝えた。後はヤルだけだ。  だが突然尻尾を掴まれた俺は叫んでランセルの頭の上に拳骨を落とす。獣人の尻尾をなんだと思っている! 痛んだぞ! 「あの、もう一度、長々とお願いします!」  殴られながらも気色ばんだ瞳を向けるこいつを、「あぁ、やっぱり間違ったか」という気もないわけじゃない。  だが、それでも俺はコイツを選んだんだ。そこになぜか間違いはないと言えるのも確かだ。 「お前があまりにバカだから、ほだされたんだ」 「え?」 「お前は、俺じゃなきゃ幸せになれないんだろ?」 「はい」 「それなら、俺がお前を幸せにしてやる。その代わり、二度と自分を傷つけるな。お前は、自分と俺と俺との子供のために幸せになれ。バカな事は俺が許さない」  それが俺が出した答えだ。俺はもう、お前を捨てられない。俺無しに生きられないというお前を、俺はもう放ってはおけない。  憂いは断つ。子供がいないことでお前が苦しむなら、産むのは俺だ。何十回でもやればいい。印が赤く反応するまで相手をする。その為に、ハリスに無理を言って休みをもぎ取ったんだ。 「いいか、孕むまでだ。弾切れなんて情けない事は許さない。どれだけ青い印が出ようが、赤くなるまでやればいいことだ。全部受け止める。理解したらこい」  今度こそ、俺はベッドへと向かい、着ていたローブを脱いだ。落ちた体力は十分に戻った。これならどれだけでも受けられる。  未だ目を丸くしたランセルは、次第に事を飲み込むように冷静な顔になる。そうして近づいて、そっと口づけた。 「カッコいいですね、やっぱり」 「惚れたか?」 「最初から一目惚れですから」 「そうか」  まったく、バカな奴。思いながら俺も、笑っている。緩やかに鼓動が早くなったのは、俺も嬉しいからだろう。

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