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第1話 出会い
パチンーー。
電気をつけると埃っぽい音楽室のようなにおいが立ち込めていた。
壁には数えきれないLPレコードの棚一面に並んでいる。
手前にはドラム、その横にはウッドベース。ケースにしまわれたままのアルトサックス。
楽器については詳しくないがジャズ演奏するうえで最低限がここには揃っている。
ジャズ喫茶として店を盛り上げた楽器たちが今は二階の倉庫に眠っている。
そして奥には立派なグランドピアノ。
俺は他には目もくれずピアノを丁寧に開き、一オクターブずつ違う「ド」を出してみる。
次に「ラ」。確かにそろそろチューニングしないとだな。
でも今日はちょっと面倒だし、調律は疲れるから来週、来週、と気持ちを切り替えた。
そしていつものように弾き始める。はじめは鍵盤を撫でるようにピアニッシモで。
すぐにスピードに乗り、だんだんと強く大きくクレッシェンドへ。
部屋に反響する音の振動で耳の奥がじんじんする。最近ネットで見つけた流行の曲。
確か何かの映画の主題歌の曲だったような。
えらく気に入ってこの曲をこうして練習しにくるのが俺の一番の楽しみだ。
曲がサビに向かい映画のワンシーンが浮かび上がってくる。
連打するように激しくピアノを奏でるこの感じがたまらない。
そしていっきに単音の静かな音に変化してじんじんしていた鼓膜から首を伝って全身に鳥肌が立ち込める。
この曲の一番好きな瞬間だ。
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