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第2話 ショパンとジャズ
カランカラン――。
「よう、マスター」
「おお、隼人。一週間ぶりだな」
十一月の下旬午後五時。日没が早くなり、外は薄暗く冬が迫ってきている。
この元ジャズ喫茶は不思議と寒くなると客足が増えてくる。
大人の雰囲気とはこのことだろう薄暗い店内にオレンジ色の照明が心まで温かくしてくれるからだろうか。
「今日は冷えますよ。マスター、コーヒーひとつ」
「はいよ。そういえば、あの兄ちゃん今日も来てるよ」
マスターは後ろを向きコーヒーも準備を始めた。
「え、どこに?」
客席を見渡しても、本を読んでいるビジネスマンらしき男性が一人のみだった。
自動の粉砕機で煎った豆を粉砕している。
グオオオオーンと響かせながらマスターは人差し指を天井に上げた。
「なんなんだよ、あいつ」
「しかし、隼人。君がプロのピアニストとは知らなかったぞ」
「何言ってるんですかマスター、俺は遊びで弾いているだけで音大も出てない素人ですよ」
「そうなのか?」
マスターは沸かした火を止め、ドリップを始めた。
蒸気と一緒にふっくらと挽いた豆が膨らむ。
たちまちコーヒーの香りが店いっぱいに充満する。
至福のひとときだ。
恐らくマスターは動画サイトの投稿を何か特別な事と勘違いしているのだろう。
残念だが、スマホさえあれば動画投稿は誰でもできる時代だ。
「それではあの子にピアノを教える必要はなさそうだな」
「まあね、受講料もらえるなら適当に教えるけど」
差し出されたコーヒーを口に含む。程よい苦みがやってきて鼻から独特の香ばしい香りが抜けていく。
「タイラは、ピアノが弾けないどころの騒ぎじゃないぞ」
タイラ。どうやらそれが彼の名前らしい
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