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第2話 ショパンとジャズ

「マスターからどう聞いたのか知らないけど、俺はプロのピアニストでもないし、譜面もまともに読めないただの素人だよ」 「ピアノの調律できるの?」  ピアノの弦に触れ専用の機械を当てていく。 「見よう見まね。ただのモグリだ」 「すげー!かっこいい!」  俺は構わず作業を続けた。順番に鍵盤を叩きミリ単位で弦を絞めたり緩めたりする。 神経の使う事だからできれば一人でやりたいのだが。 「あ、隼人さんここ。この音、気持ち悪いんだ。」  真木多衣良が指したのは2オクターブ目の「レ♯」 「あと、これも変じゃない?」  次に指したのは3オクターブ目の「ミ」の鍵盤。 「お前、絶対音感持ってんのか?」 「はい。ってことは隼人さんもですよね」 「いや、俺は・・・・・じゃない」 「え、でも調律できるじゃん」 「だからモグリだって。ていうか少し黙れ」  真木多衣良は言われた通りに黙り俺の調律作業をみていたが、飽きるようにまた違う鍵盤を叩き始めた。 叩くと次、何度も直して欲しいと音で合図してくる。 ムカつくのが先週、俺が違和感を感じた鍵盤を順に鳴らしていくところだ。 強く弱く音が伸ばして、弾むように。ピアノの単音を使って会話しているようだ。 ちらっと真木多衣良を睨むとにっこりと微笑んできた。 パーマでカールした焦げ茶色の髪から栗色の瞳が覗き込む。 どこか外国の血が混じっているようだ。高校生の割には大人っぽい。 中性的な整った顔立ちに思わず男の俺ですらドキリとする。 そしてドキリとする自分に腹が立つ。 「なんだその頭は。お前本当に高校生かよ」 「これは天パです」  大体の調律が終わるとすっかり冷たくなってしまったコーヒーを啜った。 「隼人さんがいいんだ。どうしてもピアノを教えて欲しい」 「さっきの聞いてたぞ、クラシックなんてピアノの王道じゃねえか。それをあんな完璧に弾いてただろう。あれは幼少の頃からやってないと仕上がらないレベルだ。それを、楽譜も読めない素人に何を教わるんだよ」 「僕は今スランプなんだ」 「お前、プロ目指してんのか」  そういうと、真木は俯き口を尖らせた。 「いや別に。まだ決めてない。ピアノだけで食っていけるほど甘くないのは知っているし」    進路に迷う男子高生か、俺は昔、教員を目指していた教育実習生の頃を思い出した。 こういう生徒がいっぱいいたな。 「ピアノの先生にも言われているんだ、耳に頼り過ぎてるって。聞いた曲をコピーするだけなら演奏者じゃない。機械と一緒だって」  真木多衣良は目の前にある楽譜を指しながら続ける。

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