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第3章 ペルソナ心理
「だから、何でついて来るんだよ」
とうとう真木多衣良は俺のアパートまでついて来やがった。
「本当にお願い。週末だけでいいから泊まらせて。お願い」
「お前、学生だろ。家に帰れよ」
「今、家に帰りたくないんだ。今帰ったらまた強制的にただのピアノ漬けの地獄になっちゃうんだよ。嫌なんだ。ピアノがどんどん嫌いになるみたいで」
アパート前で騒いていると近所の玄関先の電気が付くのが目に入った。
「ったく、近所迷惑になるからとりあえず中入れよ」
「隼人さん!ありがとう!Thank you!!」
そういうと、真木多衣良は思いっきり俺に抱きついた。
「お前、どっか混じってんだろ」
簡易テーブルにコンビニ弁当を二つ広げて男二人で寂しい夕食をしていた。
「僕はクオーターなんだ。母親がドイツと日本のハーフで父親が日本人」
「家に連絡したのかよ。一応、未成年預かるんでね。何かあったら俺が迷惑するんだからな」
「しました。大丈夫です。迷惑はかけません」
何となく、それ以上踏み込まないでほしいような顔つきだったので詮索はしない事にした。
シャワーを済ませ、着替えを渡した。
誰かと同居するのは久しぶりでここに人がいるのが変な感じだ。
「とりあえず今日はこれで寝ろ」
「隼人さんの家って、カーテン無いのに寝袋はあるんですね」
真木多衣良は笑いながら寝袋を広げた。
「俺の愛用品だ。昔、随分ブラックな会社にいたもんでね」
「前の会社って?」
「ウェブマーケティングの会社だ」
「マーケティング?なにそれ」
「うーん。簡単にいうと、商品を売る時の計画とか作戦を立てるみたいなことかな」
「ふうん」
理解しきれない様子で頷いている。
「俺のペルソナってハンドルネームもそこから取ったんだよ」
「えっ、ペルソナってゲームから来てるんじゃないの?」
「ゲームはやらねぇ。ペルソナっていうのはIT用語の一つで、商品を売るために架空の人物を作り上げる事だよ。」
「なんでわざわざ架空の人物を作り上げるのさ?」
どうにも理解するのが困難な顔をしていた真木多衣良はすっかり俺に心開いているようだった。
今時の高校生の割には無邪気だな。
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