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第3章 ペルソナ心理

「お前が弾く曲ってクラシック専門なの?」 「うん。クラシック以外は弾いても披露する場面もなかったし」 「ショパンとかベートベンとか名作曲家って呼ばれてる奴は大昔に死んでるわけじゃん。お前そいつらの事知りたいとか思わないの?」 「え、正直、考えたこともない」 「詳しくないけど、ショパンはかなり妄想癖で暴走型。ベートベンは耳が聞こえないで有名だけどそのせいか執着心が強くてストーカー気質。おまけにマザコン」 「えぇ、そうなの?」 「楽譜は読めないけど、俺だったらピアノを弾く時は曲を作った奴を最低限リサーチするな。そいつの性格、家族構成、血液型、性癖。実際会う事は出来ないけどある程度の人物像は作り上げるかな。まあ、昔の職業病だけど」 「あ、想像人物を作り上げるからペルソナなんだ」  ド素人の俺のピアノがこいつに響くとしたらそこしか考えられなかった。 俺は寝間着に着替え、インスタントコーヒーに湯を注いだ。 「例えばお前だって恋人の一人や二人、真剣に考えたりするだろ」 「こ、恋人って、ピアノには関係ないでしょ」  急に赤面する真木多衣良が意外過ぎて笑えた。 「ははは、お前、何?そんなツラして童貞かよ」 「笑わないでよ!普通でしょ、僕まだ十七歳だし」  深夜二時。 真木多衣良は俺の話にすこぶる興味を持った。初めての世界を覗いたって感じだ。 俺の職歴。ジャズの歴史、喫茶店マスターの正体。 俺が話していくと真木多衣良も吊られるように徐々に自分の事を話始めた。  両親の離婚と母親から託されたピアニストの夢。日本に残された自分と父親との距離。 物心ついたころから学校以外の時間はすべてピアノに注ぎ込まれていたこと。 それが苦しくなっている事。 俺はいつも訳あり生徒を担当してしまう。 話は明け方まで続いた。 今日は珍しくサボが無口だった

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