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第3章 ペルソナ心理
十二月に入り準備は徐々に忙しくなった。
デパートや、商店街のあちこちにツリーが置かれ、一気にクリスマスムードとなり、
師走の忙しさに街がいつもよりざわめいていた。
店では当日のみアルコールを限定で出す事にし、軽く振る舞う料理を決めた。
客席はせいぜい三十席ほどしか確保できないが、チケットを作成し完全予約制で特別感を出した。
マスターのお手製チラシは俺がIllustratorで作り直しネット印刷をかけて知人に配る事にした。
そしてマスターと同意見で、真木多衣良には本番まで一切ピアノに触る事を禁止した。
「なんで駄目なの!!練習しないと弾けないじゃん」
真木多衣良はマスターの横で皿洗いをしていた。
ジャズセッションが決まってからというもの毎日ここに来ているようだ。
マスターとも随分仲良くなっている。
カウンターに立つ二人の日本人離れした雰囲気に異国のカフェに入ったような錯覚すら感じた。
「多衣良、ジャズは即興の方が楽しいぞ」
マスターは笑いながら言う。マスターに息子がいたらこんな感じだろうか。
「どっかの魔女だって飛べなくなったら飛ぶのを止めただろ」
俺は淹れたてのコーヒーを啜りながら口を挟む。いつものマスターの味だ。
「結局飛んだじゃん。デッキブラシで!」
「だからお前も飛ぶだろ。ジャズで!」
「練習もしなくて間違ったらどうすんだよ」
「これはコンクールでもねえし、テストでもねえよ」
「そうだけど、お客さんだって来るんだし」
「まあ、最低限チケット代程度の演奏はしろよ」
「だから練習させてくれよぉ!」
真木多衣良は地団太を踏んでその場でもがくようにしてみせた。マスターが大笑いしていた。
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