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第3章 ペルソナ心理

決めたわけではないが週末になると真木多衣良は俺のアパートへ転がり込んだ。 平日は自宅に戻っているようで、学校もちゃんと行っていた。 俺はこの異常聴覚の体質を考慮してなるべく人と関わらないように暮らしてきたが、真木多衣良が来るのは嫌ではなかった。 こいつは泊りに来るたび真新しいタオルや詰め替えのシャンプーなどの日用品を補充していった。 品のある食べ方、目上の人への気遣い方をみて育ちの良さが垣間見えたのが好印象だった。 「お前、ピアニストとしてちょっとした有名人だったんだな」  俺はベッドの上でノートパソコンを叩きながらネットから曲の構成を考えていた。 「げっ、隼人さん、もしかして何か見つけちゃった?」  真木多衣良が風呂上りに頭をタオルで拭きながらギクリとした表情になった。 「ほれ、お前も動画に上がってんじゃん」  ネットサーフィンをしているとそこにはピアニストTaira Makiのピアノリサイタルの映像が流れていた。 何百人と収容できるコンサートホールに真木多衣良が単独演奏する動画だった。 「や、やめてくださいよ。消してください」  真木多衣良は必死でパソコンを隠そうとする。 「しかしこれってお前の魅力を一切殺してるって感じだな」 「僕の魅力?」  動画を見せながら俺は答えた。 「俺がショパンを聞いたときは学ラン美青年っていうより、大人の男って感じだったな。こんな物足りなそうな顔して。お前って中身は清潔感のある坊ちゃんだけど、外見とのギャップがあるからもっと健康的な色気を出してもいやらしくなくていいと思うんだよな」  見ると真木多衣良は子供のようにぽかんと口を開けていた。 天パでさらにカールした濡れた髪から頬に雫が落ちる。 そのアホ面に俺は持っていたシャーペンで開いた口を叩いた。 シャーペンは前歯にあたりコンと鳴った。 「童貞くんに色気は無理か」とまたからかおうとすると、真木多衣良は口元にあるシャーペンをゆっくり唇でなぞり先端をペロリと舐めた。 濡れた舌から唾液が伝って糸を引いた。 「な、何してんだよ」  思わず俺はシャーペンを引っ込めた。 「童貞をバカにするからだ」  たじろいだ俺に真木多衣良は満足するようにドヤ顔をしてきやがった。 その顔に胸が高鳴ってしまった自分を殺してやりたい。 お母さんごめんなさい。早くいい人見つけます。

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