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第5話 Christmas Eve Jazz session

「Ladies and gentlemen……」 マスターのネイティブな英語で挨拶が始まり一気にジャズ独特の大人な空間が立ち込めた。 ざわついていた客席に緊張感が走り、一斉に舞台に注目が集まる。 演奏者をそれぞれ紹介し、皆が拍手をもらった。そして、 「ドラムはHayato Tachibana!!」  紹介され、俺はドラムスティックを片手にしれっと登場した。 多衣良が金魚のようにパクパクと口を開けている。 その顔をみて俺は大爆笑。 大成功だ。 「隼人さん!ドラムもできるの?」  ピアノからひょっこり顔出し俺に告げる。 「モグリだ。バカ」  一生懸命かっこつけたが、この一ヶ月死ぬほど練習した。 学生の頃この特殊な可聴音域の能力を何かに活かせないかとコピーバンドをやっていたのが幸いしたが、もう数年は触っていなかった。 マスターにも付き合ってもらい、なんとか形になったってところだ。 今日の日まで多衣良には内緒にしていた。このアホ面を見たかったからだ。  最初の曲はジャズの代表的トランペット奏者であるチェット・ベイカーのBut not for meから始まった。 マスターの演奏を持ち焦がれていたかのように旧友たちが穏やかな顔をして音楽に耳を澄ませた。 曲の構成は俺に任せるって、要はマスターからしたら何がリクエストされても演奏できる証だ。 さすがアメリカで活動しいていたジャズトランペッターだ。 演奏以上にパフォーマンスがすごい。 客がどうすれば喜ぶかを知っている。 ここが日本の喫茶店である事を忘れてしまいそうだ。

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