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第5話 Christmas Eve Jazz session
すると、その曲がどんどん早くなりクレッシェンドが広がった。
ブラットが戸惑い、音を小さくする。
ベースがかすかに聞こえるなか、聞き覚えのある曲が混じっている。
これって、
「ショパンか?」
俺は思わず口に出てしまう。
多衣良が笑いながら俺を見ている。多衣良と出会って初めて聞いたあの曲だ。
男性的で、堂々としていて戸惑いながらも弾きはじめると全速力で前に突っ走ってしまう。
あの時聞いた曲だ。
でもドラムとベースのリズム隊が入る余白をきちんと準備している。
ブラットと俺はピアノに手を引かれるように演奏を重ね、気づけばビル・エバンスとミックスされる形となっていた。
「すげっ、ショパンをジャズで口説いてやがる」
気づけば、客席の話し声は一切なくなり、息遣いすら聞こえなくなった。
みんな、息を飲んで多衣良の奏でる魅力に引き込まれていく。
カウンターでマスターと多衣良の父親が挨拶を交わしている。
声が聞こえなくてもわかる。
父親の目が息子である多衣良から離れない。
チケットはあの二人に渡したようだ。
表情まで読み取れないが、ずいぶんと刺激的な授業参観だ。
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