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第5話 Christmas Eve Jazz session
生セッションは大いに盛り上がった。
一時間弱の演奏予定だったが、客からのアンコールが鳴りやまず、マスターが旧友に乗せらされ生歌まで披露してくれた。
重厚感のあるハスキーボイスとその上手さに俺と多衣良は思わず目を合わせて輝かせた。
マスターの正体である元プロジャズトランぺッター兼ボーカリストである事はリサーチ済みだからだ。
客席の緊張が緩やかになり程なくしてライブ終了となった。
みんな笑顔だった。
大爆笑ではなく、この季節にピッタリなほっこりした幸福に満ちた笑顔だった。
多衣良の周りには数人の人だかりができ、日本語や英語が混じった会話が飛び回っていた。
「隼人さん!」
振り返ると多衣良が人をかき分けハイタッチの構えで左手を挙げていた。
パチンと手を叩くとその手を引っ張られて多衣良に抱き寄せられた。
「ありがとう隼人さん。すっごい気持ちよかった。Thank ……Thank you so much」
耳元で泣きそうな声でささやかれた。
長身な多衣良にいつも俺は抱きしめられる態勢になってしまう。
他人を避けて暮らしてきた俺なのに、いつもこの腕が振りほどけない。
「俺も、こんなに気持ちよかったの初めてだよ」
俺が顔をあげると多衣良は口にキスをしてきた。
「おい、何すんだよ」
「え、嬉しかったから」
「いきなり外人ヅラすんじゃねぇ!この童貞が!」
そういって多衣良の回した腕を振りほどこうとするが、びくともしない。
多衣良が腰を落として俺の真正面に顔を寄せる。
「僕、童貞だけど処女じゃないから」
にっこりと小声で囁くこいつの顔がピアノを弾いてる時より色っぽかった。
客を見送り外へ出ると雪が散らついていた。
街はいつもより幸せそうな声が聞こえてくる。
楽しかった。本当に。
今までで感じたことのない爽快感と充実感だった。
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