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第23話

「……ふふ。やっぱり、出来ないんだね」 上から見下ろす僕を眺め、言葉とは裏腹に白川が柔らかく笑う。 細めたその瞳は、僕の不安を全て拭い取って優しさで包み込んでくれる……慈悲に満ちた光を宿す。 それに酷く戸惑いながらも、ホッとしている自分がいて。 ゆっくりと、白川の上から退く。 「あー、蚊に刺されちゃった」 上体を起こし、少し首を傾げた白川が、晒した方の首の付け根に手をやる。 ぱさ…… 先程、白川が緩めたせいだろう。 甚平の前が開け、腕を下げた方の肩から布地がスルリと滑り落ちる。 瞬間──むあっと立ち篭める、噎せ返る様な甘い匂い。 ──ドクンッ 露わになる、白川の半裸。 直ぐに視線を外したものの。再び沸き上がった欲望には、抗えなくて。 ドクン、ドクン…… 高鳴る胸を抑えながら、白川を盗み見る。 細い首筋、鎖骨、胸元……とゆっくり視線を下げていけば…… 輝くような白い肌に散った──幾つもの赤い痕。 「……!」 それは、決して蚊に刺され等ではなく。 ゾクゾクと、悪寒が走る。 「──あの日。 僕の後を追い掛けるように、駆け足で来た。 だからね、こう言ってあげたんだよ。『このままだと、悪いことが起こるよ』って」 「……」 「だけど、……聞こえてなかったみたい」 淡々と語り出す白川。視線を上げれば、視界に映る赤い唇の両端が、クッと持ち上がる。 「……案の定、狙われた──」 瞬間──時が止まる。 視界がぐらりと揺れ、肌に纏わり付いた湿気や汗が一気に冷えていく。 それまで感じていた、白川に対するか弱さや慈悲に満ちた印象が拭い去られ……不気味な程の恐怖に包まれる。 「………狙われた、って……」 「連続殺人犯にだよ」 答えながら甚平を全て剥ぎ、僕の前にその全貌を曝け出す。 「──!」 そこに現れたのは──無数の鬱血痕。 まるで白いキャンバスの上に、薔薇の花弁が散りばめられたように。 「だから、僕が身代わりになったんだ」 その光景は、まさに異常で。 その異常な行為を、どれだけ白川が耐え続けていたのか── 想像しただけで、吐き気がした。

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