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第32話 惨劇

腐食した小屋から、遺体が発見された。 死後、約二週間。 夏場という事もあり、腐敗がかなり進んでいたらしい。 被害者の名は、白川光音。 服は剥ぎ捨てられ、鎖骨から下には無数の鬱血痕。首には手で絞められたような指痕。太腿の間や腸内に精液が残っていた事から、隣町で起きた通り魔事件と同一犯である可能性があるとされた。 しかし、それはアッサリと覆される。 麻生さんの証言により逮捕されたのは、通っている塾の近くに住む21歳の大学生。学業が上手くいかずノイローゼ気味になり、鬱憤を晴らす為、隣町の駅付近で手頃な少女を物色していたらしい。 しかし、少女の件は認めたものの、少年への犯行は否認。 その後、小屋の床下から新たに複数の白骨化した遺体を発見。 三年前、六年前、九年前、十二年前──何れも同じ場所に埋まっていた事。単独犯によるもの。容疑者の実年齢から考えて、近年以外の犯行は不可能。 その後のDNA鑑定により、同一犯ではないと判明。 被害者は、何れも県外在住。中学2年の少年。 機能不全家族。内向的で存在感は薄い。仲の良い友達はなく、孤独を抱え、何処にも居場所のない彼等は、ネットの世界に逃げ込み、自分の存在価値を求めていた。 その被害者全員に関わりがあった人物は──手を差し伸べ相談に乗ってくれる、″kei″。 ネット版『駆け込み寺』を運営する″kei″と出会った彼らは、最初は気が向いた時に対話をする程度だった。しかし、やがて密にやりとりをするようになると、″kei″にすっかり陶酔し、リアルで会う約束までする仲になっていたという。 中でも最も古い遺体は、二十年前。 被害者の名は──黒川光。 この村の元住民。中学2年の頃、実父による性的虐待により一時保護。その後、遠い親戚に引き取られるものの、失踪。 恐らく他の被害者同様、″kei″と密かに会う為だったのではないか、とされた。 「………違う」 勝手に報道するテレビのニュースキャスターに向かって、小さく吐き捨てる。 この人達は、何も解ってない。 黒川光が会いたかったのは、″kei″じゃなく……小山内先生だ。 そして、あの悪夢のような惨劇は──今でもまだ、強烈に、僕の目に焼き付いて離れない。

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