33 / 71

第33話

ギシ…… 湿気た木の匂い。むんと、籠もった熱気。 雑草と蔦が蔓延った外観とは違い、中は意外と綺麗に手入れがされていた。 ……カチ、 ランタン型懐中電灯の明かりを灯し、教師が入り口付近に立つ白川を手招く。 不安げに胸の前で腕を交差させ、自身の二の腕を掴みながら中へと進む白川。 部屋の一角に置かれるランタン。辺りをぼんやりと明るく照らし、そこから放射線状に二人の影が伸びる。 使っていない農機具なのだろうか。見た事もない道具や機械が薄明かりに照らされ、天井に向かって影を大きくする。 「……先生、神輿は……?」 「光くん!」 辺りをキョロキョロと見回す白川に、突然教師が抱きつく。 「好きだ!」 「……っ、」 「好きだ、好きだ、好きだ……!!」 白川を壁際まで追い詰め、発作のように迫る教師。 細い首筋に顔を埋め、ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てる。 「ゃ、!」 突然の事に驚き、反射的に両手で教師を押し返す。 しかしそれを許さず、手篭めにしようとする教師を振り払い、部屋の奥へと逃げる。 「……こんなに愛しているのに、何で気付いてくれない…… 君が父親から性的虐待を受けていたのを、いち早く気付いて助けようとしたのは……この、僕なんだよ!」 「……」 「なのに……小山内、小山内。 小山内、小山内、小山内……!! 君の口から飛び出す名前は、いつも小山内ばかりだ……!!!」 怒鳴り声を上げ。肩を震わせ。 荒々しい呼吸をそのままに、一歩、また一歩……と近付く教師。 下から照らすランタンの灯りが、教師の顔を不気味に映し出す。 「……やめ、」 「もういいだろう、小山内は。 僕なら……学年主任の僕なら、光くんを守れる。頼りにもなる」 「……」 「それに──」 口端をクッと持ち上げ、不気味に歪む。 「僕なら喜んで、君と『家族』になるのに……」 「……!」 大きく持ち上がる、白川の瞼。 その強い衝撃に、息をも止まる。 全身から、力が抜けてしまったんだろう。膝から崩れ落ち、見開かれた瞳が涙で滲む。 「だから、いいだろ」 「……」 「……なぁ、光くん……」 思い詰めた教師の眼が、白川を捕らえて離さない。 ゆらり、と身体を左右に揺らしながら近付き、脅え竦む白川を上から覗き込んで追い詰める。 まるで、蛇のように。

ともだちにシェアしよう!