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第33話
ギシ……
湿気た木の匂い。むんと、籠もった熱気。
雑草と蔦が蔓延った外観とは違い、中は意外と綺麗に手入れがされていた。
……カチ、
ランタン型懐中電灯の明かりを灯し、教師が入り口付近に立つ白川を手招く。
不安げに胸の前で腕を交差させ、自身の二の腕を掴みながら中へと進む白川。
部屋の一角に置かれるランタン。辺りをぼんやりと明るく照らし、そこから放射線状に二人の影が伸びる。
使っていない農機具なのだろうか。見た事もない道具や機械が薄明かりに照らされ、天井に向かって影を大きくする。
「……先生、神輿は……?」
「光くん!」
辺りをキョロキョロと見回す白川に、突然教師が抱きつく。
「好きだ!」
「……っ、」
「好きだ、好きだ、好きだ……!!」
白川を壁際まで追い詰め、発作のように迫る教師。
細い首筋に顔を埋め、ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てる。
「ゃ、!」
突然の事に驚き、反射的に両手で教師を押し返す。
しかしそれを許さず、手篭めにしようとする教師を振り払い、部屋の奥へと逃げる。
「……こんなに愛しているのに、何で気付いてくれない……
君が父親から性的虐待を受けていたのを、いち早く気付いて助けようとしたのは……この、僕なんだよ!」
「……」
「なのに……小山内、小山内。
小山内、小山内、小山内……!!
君の口から飛び出す名前は、いつも小山内ばかりだ……!!!」
怒鳴り声を上げ。肩を震わせ。
荒々しい呼吸をそのままに、一歩、また一歩……と近付く教師。
下から照らすランタンの灯りが、教師の顔を不気味に映し出す。
「……やめ、」
「もういいだろう、小山内は。
僕なら……学年主任の僕なら、光くんを守れる。頼りにもなる」
「……」
「それに──」
口端をクッと持ち上げ、不気味に歪む。
「僕なら喜んで、君と『家族』になるのに……」
「……!」
大きく持ち上がる、白川の瞼。
その強い衝撃に、息をも止まる。
全身から、力が抜けてしまったんだろう。膝から崩れ落ち、見開かれた瞳が涙で滲む。
「だから、いいだろ」
「……」
「……なぁ、光くん……」
思い詰めた教師の眼が、白川を捕らえて離さない。
ゆらり、と身体を左右に揺らしながら近付き、脅え竦む白川を上から覗き込んで追い詰める。
まるで、蛇のように。
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