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第41話

「……ひかる、覚えているかい」 甘えつくような、猫なで声。 月明かりに光る白川の肢体を、先生の指が撫で上げる。 「『僕が、ケイくんの傍にいるよ』──君がそう言ってくれた時から、僕の世界は君で一杯になった」 寝転がったまま肘枕をし、白川の顔を覗き込む。月明かりを遮り、白い肌の上に落ちる漆黒の影。 「小5の頃、とても可愛い女の子が転校してきた。……僕の初恋の人だよ」 「……」 「だけど女というのは、危険な香りのする悪い男を好む。……彼女は、よく僕をパシりにする、ガラの悪い二つ上の先輩と付き合うようになった」 先生の指先が、白川の胸にある小さな突起に到達する。それをピンと弾いた所で、白川に何の反応もない。 「その内二人の間に子供ができ、入籍。 黒川先輩も、その時ばかりは家族の為に真面目に働いてた。 けどね。元々そんなガラじゃなかったんだよ、奴は」 中卒で数年ふらついていた黒川が、土木作業員として真面目に働き、生活が安定してくると、身重の妻──真奈と、手狭なアパートを借り身を寄せ合った。やがて子供が産まれ、家族三人での生活に幸せを噛み締めていた。 しかし── 「仕事を辞め、ギャンブルに明け暮れ、昔の不良仲間の知り合いから暴力団組員を紹介されると……本格的な家庭崩壊が始まった。 上納金と生活費を稼ぐ為に、真奈ちゃんは昼も夜も身を粉にして働いて。事情を知らない周囲からは、育児をまともにしていないと白い目で見られ。 その噂は酷いもので……とうとう職を失ってしまった」 「……」 「そんな真奈ちゃんを更に追い込んだのは、黒川だ。最愛の妻をソープに沈め、金を稼ぐ為だけの……道具にしたんだから」 「……」 少しだけ、憂いを帯びた声。 先生の指が、ゆっくりと鎖骨の窪みをなぞる。 「僕は、そんな真奈ちゃんを救いたいと何度も思ったんだよ。……でも」 ──なら、お前が真奈を指名しろ。 俺のオンナを抱く度胸が、テメェにあるならな……! ──ふざけないでっ、 どんなに辛い地獄の中でも……あんたに同情されて裸を晒す程、私は落ちぶれてないわよ……! 「小さい頃からずっと……僕は黒川の奴隷で、下僕だから。出会った当初から、真奈ちゃんにも見下されていたんだ。 事ある毎に呼び出されては、真奈ちゃんの目の前で殴られて。金も、毟り取られて。……幼い君の前でも、いつも情けない姿を晒してきた。 なのに君は……そんな僕を、ぎゅっと抱き締めてくれたんだ」 『大丈夫。……僕が、ケイくんの傍にいるよ』 ──畳に伏せ、縮こまって啜り泣く溝口の小さな背中を、両親の目を盗んでギュッと抱き締める光。

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