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第58話
ギュ……
掴まれた所を、強く握られる。
引っ込めようとするものの、離すまいかと更に力が籠められる。
「拘束されりゃあ、今みてぇに普通は抵抗するよな」
「……」
「頑丈に縛られてんなら、尚更……」
「………ぃた、っ!」
抵抗すればする程、男の指が食い込み……骨が軋んで、痛い。
「離せ」
低く唸る、男の声。
それまで押し黙っていた小山内先生が、凄んだ目つきで横峰を睨んでいた。
「言われなくても、離してやるよ」
「……」
その言葉通り、男がパッと手を離す。
じんじんと痺れる指先。拒絶するように腕を引っ込め、掴まれた箇所を擦る。
「……見ろ。俺がちょっと掴んだだけで、手の痕がついてんじゃねぇか」
言われるまま視線を落とせば、確かに薄らと赤くなっていた。
「暫く、拘束痕が残ってたンだろうなァ……こんなに白くて、女みてぇな柔肌なら、尚更……」
「──止めろ!」
もう一度、僕の腕に触れようと手を伸ばした横峰に、小山内先生が一喝する。
しかし、相変わらず空気を読まない横峰は、含んだように笑いながら先生に目をやった後、ニヤつく口の片端を吊り上げ、携帯の画面に視線を落とす。
「……目撃者証言の件だが……」
悪びれる様子もなくそう言いながら、携帯画面を僕に向ける。
ボイスレコーダーのアプリだろうか。横峰が再生ボタンをタップすれば、僅かな雑音が漏れる度、音量を示す横線に波形が生まれる。
《確かに丸山クン、一人でふらっと公園を出て、人気のない方へ行っちゃったのよ。それを見兼ねた啓ちゃんが、心配して追い掛けて行ったの。……ほら、この辺りで物騒な通り魔事件があったでしょ?》
「溝口に呼び出し電話を掛けたとされる、カマ野郎──恵子の証言だ」
「……」
「一聴すれば、人気のない所で丸山透に声を掛けた溝口が、肩を並べて歩く姿が容易に想像できるだろう」
「……」
……確かに。
これを聞いたら……後から合流した先生と僕が、一緒にいたような気さえしてしまう。
「しかし溝口は、人混みに紛れた丸山透を、夕暮れ時という時間帯も手伝って、見失っている」
「………」
「これが、その本人の証言だ」
《……あの時、確かに……丸山透くんの隣に、光くん──黒川光くんの姿が見えたんだよ。
丸山くんを庇うようにして、此方に振り返った光くんが、追い掛けようとする私に不敵な笑みを見せた後……人混みの中に、紛れ込んで……行ってしまった……》
「……」
黒川光くんが……
あの道中で、そんな事を──
「………なぁ、面白ぇだろ?」
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