6 / 65

第2話 Jazz Morgan

「僕、ピアノ続けようか迷ってる」  ホットコーヒーを口につける。サラは紅茶。 「なっ、なに言ってんのよ!エルナの、お母さんのためにも続けるって去年まで話してたじゃない」 「サラも無理して僕にピアノを教えなくていいから。母さんの真似しなくてもいい。だいたい離婚した家に元妻の妹が入り浸るのも父さん的にどうかと思うよ」  父さんは母さんにベタ惚れだった。サラは姉である僕の母さんに似ている。 姉妹なのだから当然だ。その顔で父さんの前をうろついて欲しくないし、母さんの残していったピアノも父さんに聞かせたくない。 僕はもっと自由に生きていけばいいのだと思う。同級生と同じように放課後バイトをしたり普通に就職した方が父さんも安心すると思う。 「趣味はピアノ」というのも悪くない。  サラは僕を説得し始めた。それは次第に説教に変化していき、僕はぬるくなったコーヒーを啜るだけだった。 ピアノが楽しかったのっていつまでだっけ。  話半分で聞いていると、小さくサラが言った。 「どうして……お母さんに付いて行かなかったのよ」  その言葉だけに反応し僕は思わずカッとなった。 「だから、もうあんたには関係ないだろ」  急に店の中が静かになった気がした。店員さんがいる後ろを振り向けない。 自分で言ってビックリして、すぐに恥ずかしさが込み上げた。  するとどこからか、ピアノの音が聞こえてきた。 ジャズのリズミカルなBGMの間をすり抜けて聞いたことがある曲が流れてくる。  これって。  今練習している映画主題歌の曲だ。それに、この弾き方。似てる。 ペルソナさんにそっくり。 語尾の弾み方。強弱の付け方までそっくりだ。どこ?どこで弾いてる?  曲が単音の静かな場面に移り変わった。 二階だ。  僕は思い切り立ち上がるとカウンター横にある階段を一目散に駆け上がった。 その際テーブルを蹴ってしまい、まだ途中のコーヒーカップを落としてしまった。 ガシャン――。 「あ、お兄さん、ちょっと待ちなさい」  慌てたおじいさんの声がするが僕は構わず階段を駆け上がった。  扉を開けると、そこには仕事帰りなのかワイシャツ姿のサラリーマン風の男の人がピアノの前に座っていた。

ともだちにシェアしよう!