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第2話 Jazz Morgan
その人は先ほど喫茶店に入って来た常連客らしい人物だった。
てっきりもっと経験豊富なおじ様が弾いてるかと思ったのに。
結構若い。二十代後半くらいだろうか。
「今弾いてたのって、あんた」
二階にはドラムやウッドベースなどの楽器が眠っており、壁一面に無数のレコードが並んでいて学校の音楽室と同じ匂いがした。
「もしかして、あんたがペルソナさん?」
「誰ですか?アナタは」
眉をピクリと動かし怪訝そうな顔をしたが、否定しない。
この人がペルソナさんなの?こんな近くにいたの?嘘だろ。
まさか会えるなんて奇跡じゃん。やばい、えっとどうしよう。なんて言う?
対してペルソナさんは僕をずっと不審者を見るような目で見ていた。
ツーブロックにした黒の短髪に、若い見た目のわりに落ち着いた雰囲気。
ピクリとも笑わない表情に威圧感を感じたが僕の勢いはどうにも止まらなかった。
「あ、あの、僕にピアノを教えてくれませんか?」
「はあ?」
男はさらに不機嫌な顔をしながら僕を睨んだ。
「も、申し訳ありません、突然この子が失礼な事を」
サラとおじいさんが後ろから続いた。
「多衣良!何やっているのよ」
サラは僕の頭を掴みそのまま無理やり頭を下げさせた。
次におじいさんへそのままお辞儀をして、僕はようやく我に返った。
「なんか、面倒くさそうだから俺帰るわ。マスターまた来ます」
そういうと、ピアノを閉じ上着を手にすると僕らの前を通り過ぎた。
「また、ここに来ますか?」
僕は下げた頭を振り上げてペルソナさんへ問いかけた。
「やめなさいって」
今度はサラに腕を引っ張られたけど、僕の視線の先にはペルソナさんしか目に入っていなかった。
ペルソナさんは僕を相変わらず不審者を見るように一目すると、マスターと呼ばれるおじいさんに挨拶して出てってしまった。
「隼人だよ」
「え?」
肩を落とした僕にマスターが話しかけてきた。
「He is hayato Tachibana」
橘隼人――。マスターが英語で答えてくれた。
やっぱりマスターも純粋な日本人じゃないようだ。
「また、来てもいいですか?」
「Sure.」
マスターがそれはそれは自然なウィンクをくれて僕は心底ほっとした。
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