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第3話 ショパンと調律

二階は楽器の倉庫といった感じで、防音にもなっていない扉を閉めると眠った楽器たちのせいで余計に静かに感じる。 十一月になると日が落ちるのが早い。 窓から差し込む夕日も急ぎ足で夜に吸い込まれてしまう。 僕は電気を点けるのも億劫で、カーテンの無い窓からわずかに漏れる街灯のあかりを頼りにピアノを叩き続けた。 ピアノの横にある窓に簡易的なカメラ設置の台が取り付けられていた。 隼人さんはこの角度から手元を撮影していたみたいだ。 一階のお店と違って暖房が付けられていないから手がかじかんできた。 僕は指を動かすためにもショパンを弾き続けた。  怒涛のように捲し立てる演奏に無心で鍵盤を叩き続けた。 隼人さんはいつもどんなふうにここで弾いているんだろう。 YAMAHAのロゴのMの所が異様にかすれている。動画に映るピアノと一緒だ。 ペルソナさんは隼人さんだ。橘隼人。どんな人なんだろう。 隼人さんはここで弾いてるときにどんな事考えてるんだろう。  パチン――。  急に視界が明るくなり、部屋に電気が灯された。 「どこに教える必要があるんだよ」 「隼人さん!よかったようやく会えた」  隼人さんはグレーのチェスターコートに暖かそうな黒のタートルネックを着ていた。 小奇麗な私服だけど、何の仕事をしているんだろう。 そして僕の学生服姿に異様に驚いていた。 「真木多衣良(まきたいら)、高校二年です。僕にピアノ教えてください」 「言っとくが、俺は譜面も読めないただのど素人だよ」 「え?」  そういうとピアノの横で何やらカチャカチャと工具を取り出した。 見ると調律に使う専用具だった。コートを脱ぎ、腕まくりをする。 「ピアノの調律師なの?」 「見様見真似。ただのモグリだ」 「えぇ!?」  この人本当にペルソナさんなのかな? 無愛想な隼人を横目に多衣良はいまだに掴めないペルソナさんの人物像に困惑していた。

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