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第4話 初めてのキス
聞くと隼人さんは二十八歳。サラの一つ年下だった。
「連絡はしましたけど、とやかくいう父親ではないので」
「何だ、母親はいないのか?」
対した興味もないくせに仕方のないような聞き返しがいっそ清々しかった。
未成年のうえに見知らぬ他人を家に招くのだから多少の詮索はしょうがない。
「去年リコンして、母親は今ドイツにいます」
「へぇ、ピアノは母親の影響?」
「そうですね。一応、プロのピアニストでしたから。あと作曲も少し」
「カーチャンすげえな。曲を作るなんて俺には想像も出来ねぇわ。どんな曲作るの?」
僕はスマートフォンに入っている曲を聴かせた。
隼人さんは本当に、心から感心するように褒め称えてくれた。
何だか僕は嬉しくて母さんのことが誇らしくなった。
そのあとは聞かれるわけでもなく、母親のことを話した。
プロとしての活動拠点はドイツだったらしいが、僕が生まれて父の転勤も続いて、母はピアノから離れてしまった。
そしてそれを託すように僕にピアノを教えてくれたこと。
ピアノが上手くなると母さんは本当に喜んでくれて、幼い僕はそれが嬉しくてピアノに熱中していたこと。
僕は誰かにピアノのことじゃなく、母さんの話をしたかったのかもしれないと話しながら感じた。
思ったよりも僕は寂しかったのかもしれない。
隼人さんは意外にも茶化さず僕の話を聞いてくれた。
てっきりマザコンだの馬鹿にされると思っていたからだ。
「家族は大事にした方がいい」
そう言われて、隼人さんの家族は、と聞くと「離婚もしていない普通の家庭だ」と言われるだけだった。
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