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第4話 初めてのキス
「ペルソナはIT用語の一つで、架空の顧客人物を作り上げるマーケティングの手法だよ」
ずっと疑問だったハンドルネームの由来を聞いているのに、聞いたこともないビジネス用語にやっぱり隼人さんは大人の人だと感じた。
聞くと家庭教師の前はウェブマーケティングの会社にいたらしい。
どんな職業なのかはいまいち理解できないけど。
「楽譜は読めねぇけど、俺だったらピアノを弾く時は曲を作った奴を最低限リサーチするな。そいつの性格、家族構成、血液型、性癖。実際会う事は出来ないけどある程度の人物像は作り上げるかな。まあ、昔の職業病だけど」
「作曲家のことなんて考えた事ないですよ。楽譜通り弾いてそれにノッてくれば良かったし」
そこにあの演奏の独特なオリジナリティが加わるなら納得かもしれない。
「例えばショパンはかなり妄想癖で暴走型。ベートベンは耳が聞こえないで有名だけどそのせいか執着心が強くてストーカー気質。おまけにマザコンとかな」
「し、知らなかった」
「そんな奴が作る曲ってどんなもんか、そいつがどんな変態野郎なのか興味ない?」
自分の部屋に戻ってリラックスしたのか、以外にも隼人さんは楽しそうに話を続けた。
「お前のカーチャンはどんなことを考えてこの曲作ったんだろうな。今度聞いてみれば?」
「え、まあ、機会があれば」
離婚してから気まずくて連絡もしていないのに、今更どうやって。
「お前は作曲とかしねぇの?恋人に作ったラブソングとかさ」
「こ、恋人って、ピアノには関係ないでしょ」
不意を突かれて僕は思わず大きな声を出してしまった。
「ははは、お前、何?そんな美人なツラして童貞かよ」
「笑わないでよ!普通でしょ、僕まだ十七歳だし」
初めてみる隼人さんの笑った顔は目じりに皺ができて、右側だけ犬歯が見えた。
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