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第4話 初めてのキス
「は、隼人さん、口、噛みすぎ」
か細い声で話しかけても全く起きる気配がない。
おろおろと動揺した僕は咄嗟に空いている右手の人差し指と中指を口に差し込んでしまった。
「かっ、うう……ん」
こじ開けようとした口はすんなり指を受け入れ、隼人さんはそのまま堰き止められていた息を吐き、細切れに呼吸を整えた。
カクカクと甘噛みをされると無意識に異物と判断され舌で指を追いやられる。
舌が人差し指と中指の間をヌルヌルと動く。
「んうっ」と苦しそうに息を漏らすその唇が唾液でテカテカと光っていた。
僕は、歪む隼人さんの表情と指を差し込んだ口から目が離せずにいた。
開いた口端から糸が伝って唾液が漏れてくる。
口の中に入ったままの僕の指は唾液と乱れる息でどんどん熱くなっていく。
口内の暗闇の奥にうねるように舌が動いている。
僕はゆっくりと指を抜いて、その暗闇に吸い込まれるように唾液で濡れた唇にキスをした。
ヌルリと滑る隼人さんの唇は小さな痙攣を繰り返していた。
かくりと大きく唇が開き、僕は慌てて上体を起こした。
眉間のシワが緩み、耳を塞ぎ当てていた左手の力が消え、寝返りをうち、やがて静かになった。
僕は大きくため息をつき、ホッと胸を撫で下ろした。
じんわりと手汗をかき、僕の呼吸は小さく乱れていた。
『こっちは、おかげで生きるのに一苦労してんだよ』
店で話していた隼人さんの言葉が急にフラッシュバックする。
大人で、知的で、超可聴音域という特殊能力を伴った僕のダークヒーローペルソナさん。
完璧だと思っていた存在が急に近くなったような気がして、僕はとてつもなく愛おしく思えた。
鼓動に震える指先で自分の唇に触れると、すっかり表面は乾いていた。
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